数日後、リビングで、ママ殿が足の爪を切っていたので、現在の様子を聞いた。
「足の具合、どうですか?」
「まだ少し痛いわ」
「こないだみたいに外出できますか?」
「とりあえず、1~2週間は、おとなしくしています」
私は、スマホのカレンダーアプリを開いた。
「ウ~ム、、、困りましたね」
「どうしたの?」
「週末に、都内でコンサートの予定があるんですよ」
「あ、忘れてました」
「どうします?」
「やめておきます。無理をして、ひどくなっては困るのよ」
「そうですか」
「残念だわ・・・」
「もったいないですね。あと1枚、チケット、どうしましょうか、、、」
ママ殿は、爪を切り終え、今度は耳掃除を始めた。
「そうねえ、、、アナタ、若い女性と行ってきたらどうかしら?」
「な、なるほど、名案です。しかし、私のような者に、果たして圓通寺サンの御利益がいただけるのかどうか・・・そこが問題です」
「圓通寺の御利益?」
「そう。縁(圓)が通じるお寺ですから」
「あら、面白いわね。墓好きの女と仲良くなったりしてね(笑!)」
「((( ;゚Д゚)))!!」
(墓好きの女・・・汗)
以上、2026/07/19「もったいないですね。あと1枚、チケット、どうしましょうか、、、」より。
結局、、、
7月10日金曜日。
ママ殿の足は順調に回復。
私は、ママ殿とコンサートに出かけたのだった。
早めに仕事を切り上げ、3時過ぎに出発。
7月といえば、土用の丑である。
まずは、コンサート前に、日本橋高島屋で、鰻を食べた。

「焼きたてで、美味しそう♪」
「ママ殿、割り箸の袋を見てください。天然うなぎと書いてあります」
「身が引き締まっているわ」


私たちは鰻を食べながら話した。
「先ほどWikipediaを読んだのですが、この鰻屋は、大作家池波正太郎の「銀座日記」に出てくる店のようです」
「池波正太郎なんて、ずいぶん昔の作家ね。鬼平犯科帳の原作を書いた人かしら」
「そうです」
「確か、鬼平役は、名優の長谷川平蔵がやってたのよね?」
「ち、違いますよ、、、(汗) 長谷川平蔵は、主人公の鬼平の本名ですよ。主演は歌舞伎役者の中村吉右衛門です」
「そうだっけ。年をとると、人の名前を忘れちゃうのよ」


「そうそう。池波正太郎といえば、私は以前、長野県上田市で、真田太平記の記念館に立ち寄ったことがあります」
「あら、上田の温泉に誰かと遊びに行ったの?」
「日帰りの仕事で、ひとり旅です」
「いつの話?」
「2023年のちょうど今頃。終活本の原稿を書いていたときに、講談師の神田織音さんの終活講談を拝聴するため上田まで行ったのです」(リンク)
ママ殿は、お茶をひと口飲んで、ため息をついた。
「あの本を出してから、もう3年たつのね。早いものだわ」
「いえ、私の本は、あまり売れてはおりませんので、私にとって、この3年は長く、苦しかった日々といえます・・・」
「オーバーなことを。でも、私たちが3年も待たされてるのは事実よ。うちの息子の本は、一体いつになったら増刷されるのかしら」(# ゚Д゚)」
「ど、どうなんでしょうね、、、増刷は、私が決めることじゃあないので(汗)。どれくらい売れてるのか、忙しいから編集者に聞いてないな」
「今度、ちゃんと聞いた方がいいわ」
「うるさいヤツだと思われますよ」
「うるさくたって、いいのよ。あっちは編集者で、あなたは著者なんだから」
食後、高島屋の服売り場を見て回り、日本橋駅から東西線で飯田橋駅へ。
飯田橋といえばオシャレな神楽坂をイメージする人も多いだろう。
だが、中小の印刷会社と出版社が多く、古い街でもある。
有名な大手企業トッパン印刷(TOPPANホールディングス)があり、印刷博物館と同じ建物内にトッパンホールというコンサートホールがある。
私たちがトッパンホールに着いたのは6時頃だった。
ここで夜7時から、オルガ・シェプス(Olga Scheps)のピアノコンサートがあるのだ。
オルガ・シェプスのコンサートは、休憩を挟んで9時過ぎまで続いた。
モーツアルト、ショパン、アンコール(プロコフィエフ、サンサーンス、ビゼーなど)・・・私たちは非常に満足し、コンサートホールをあとにした。
「今回のコンサート、とても良かったわ」
「そりゃ、そうですよ、超一流だもの。ところで、次のコンサートのチケットもあるのです」
「いつ?」
「11月下旬。東京オペラシティーです」
「まだ先の話ね。ひどい暑さだから、私は11月までに死んじゃうかもしれない」
「日中は40度越えですからね」
「これだけ暑いと、いつどこで野垂れ死にするか分かりません。いっそのこと、冷たい墓石の中に入れば涼しいのでしょうが、、、」
「ママ殿、縁起でもないことを言わないでください」
「次のコンサートは、若い女性と行ってきてはどうですか?」
「墓好きの女と?」
「そうです。どんなコンサート?」
「ええと、、、かなり人気の外国人ピアニストのコンサートです。私は初めて聴きますが、チラシを見ると、交通事故で生死の境をさまよい、再起不能から蘇った奇跡の男です」
「あら、墓に入り損ねたピアニストなのね。墓好きの女と一緒に行くには、ちょうどイイかも」
「・・・・・」


