2019/04/29

ためになる話は若者から聞け

去年の今ごろ、筑波大の近くの掘っ立て小屋のようなラーメン屋で、非常においしいラーメンを食べた。
掘っ立て小屋のラーメン屋の場合、店主は頑固おやじがお約束で、割引券を出して注文したら、やはり、いやな顔をされた。
こちらもいやな顔をされないよう、ラーメンだけではなく手羽先も頼んだというのに。
しかし、これだけおいしいラーメンなら、まあ、いいか、と思った。


ごう家ラーメン


ごう家の手羽先


ラーメン屋を出た後、私はつくば市役所で用事を済ませ、大通りの雑居ビルに入った。
午後からエストニアの起業家のセミナーがあり、ついでに聞こうと思い、予約していた。
狭い教室は、筑波大の学生と思われる若い男女ばかり、30人ほどが床に座って騒がしかった。
椅子もテーブルもなく、床に座って話を聞くなんて、小学生じゃあるまいし、と思ったが、窓際にカウンターがあるので、そこで立って聞くことにした。


エストニアセミナー


セミナーの講師は、実際にエストニアに自分の会社を設立し、ノマドとして活動する若い日本人男性であった。
90日の観光ビザで海外を旅しながら仕事をし、パソコン1台でインターネットビジネスをしているという。
楽しそうな話だが、エストニアはタックスヘイブン(税金天国)などではない。
エストニアの法人税は30%以上と高く設定されており、彼がエストニアに会社を持つメリットが私にはよく分からなかった。
彼が強調していたのは、会社設立のお手軽さであった。
ネットで申し込んで30分ほどで手続が完了し、エストニアに会社を持てる、あなたも社長になれるという。
まるで消費者金融の無人契約機で借金をする話のようではないか。
しかし、そこが若者から見ると魅力なのだろう。


エストニアセミナー


筑波大学


さて、このエストニアセミナーで、私は筑波大の学生のDさんと知り合った。
Dさんは理系のエンジニアで、一流のキャリアの持ち主だが、大企業には就職せず、ベンチャー企業への就職が内定していた。
入社後もたまに連絡を取り合い、一緒に飲んだりもするが、近々、また一緒に飲む予定だ。
エストニアセミナーの起業家の話も、Dさんの話も、若者の話はワクワクしておもしろい。
それは、社会や他人を批判したり、愚痴るようなことがないからだと思う。
あきらめといった言葉とも無縁で、常に前向きである。
時には、若者にしかできない新しい考え方が提示されることもある。
私の話も真剣に聞いてくれる。

しかし、年長者と一緒に飲むと、なかなかそうもいかない。
お酒を飲みながら、最初は年長者の「ありがたい話」を聞かせていただき、そのうち、仕事や家庭や社会に対する愚痴が出たり、酔っ払ってとりとめのない話になることもある。
ただ、ワインをおごってもらえるのは後者である。
若者と飲む時は、私がおごらなくてはならない。
ああ、それは納得。
ためになる話は若者から聞け、きっと、そういうことなのだろう。

2019/04/03

EGOIST!!

ジャンポールグード(Jean-Paul Goude)はシャネルのアートディレクターであるが、アーティストでもある。
去年の12月、銀座のシャネルで買い物をした時、ふらっと4階のギャラリーに行き、ジャンポールグード展を見た。
グードの作品は刺激的なものばかり。
そもそもグードはエゴイストのCMを手がけたことで有名となったが、そのCMも紹介されており、薄暗いギャラリーの一角では「エゴイスト!!」と叫ぶCMがずっと流れていた。

3月になった。
友達登録をしたシャネルからラインが来た。
4月にダンスオーディションがあるという。
もちろん登録者全員に送ったのだろうが、応募資格は何もいらないようであった。
私は運動音痴だが、ジャンポールグードが会場に来て審査員をするのであれば、ちょっと会ってみたい。
しかし、シロウトでもオーディションに参加できるのだろうか。
私は、シャネルのカスタマーセンターにそのことを問い合わせた。
すると、誰でもウェルカムの娯楽イベントです、ぜひ、遊びに来てください、というので、私は思い切って申し込んだ。
とはいえ、そもそも40代のへんなおじさんの私が、ダンスオーディションに受かる可能性があるのか。
まあ、ふつうに考えると無理である。

どうせ落選するとしても、ファッションくらいはしっかりキメていこう。

ということで、今日はオーディション前に、新宿高島屋のレンタルキモノ店に来ている私。
店員の女性2人の世話になり、派手なブルーのキモノを着せてもらった。
これから、新宿ニューマンに乗り込むつもりであるが、キモノに慣れてからでないと満足に動けないし、腹ごしらえをする必要もある。
私は会場に入る前に、上階のグルメ街へ、キモノ姿で「新宿つな八」に入店した。
つな八の店員は珍客が来たという感じで、私をカウンターの一番すみっこへ案内した。
私はそこで揚げたての天ぷらのコースを食べたが、どうも終始食べにくい。
まあ、歩きにくいのであれば、食べにくいだろう。
本当にこの格好は歩きにくすぎる。
明治以降の日本人が和服を捨て洋服に定着したのも必然のことである。


新宿つな八





天ぷらを完食し、私は新宿ニューマンのオーディション会場へ。
よろよろと小股で歩いたが、スーツなら早歩きで5分の距離だ。
しかし、この格好では、15分以上もかかった。
なるほど、日本の近代化、合理化効率化は、洋服のおかげである。


シャネルダンスオーディション会場


オーディションは少人数のグループごとに決められた時間単位で行われる。
受付で予約番号を伝え、誓約書などにサインをして、私は男性用のロッカールームに入った。
部屋では、私以外の唯一の男性参加者が、キラキラのダンス着に着替えているところだったが、私はキモノで踊るので着替える必要がない。
私は荷物をロッカーに押し込んですぐに部屋を出た。
オーディション会場に入ると、最初に写真撮影とビデオ撮影があった。
私はカメラの前で簡単な自己紹介をした。
まだオーディションの開始時間まで30分くらいある。
私以外の参加者たちはうらやましいほどの身軽で、つま先立ちでウォーミングアップなどをしている。
こちらはキモノがずれたら大変なので、ウォーミングアップなどできない。
すみっこの椅子に座ってじっと固まって待つことにした。




ただ、そこから参加者たちの練習風景を眺めると、どう見ても全員本気モードのように見える。
シャネルのカスタマーセンターの説明は違うのではないか。
娯楽イベントとは思えない、、、
私は心配になり、係員を呼び止めた。
聞いてみると、やっぱり、誰でもウェルカムの娯楽イベントです、と言われたが、本当にそうなのかなあ、、、そうは見えない。

しかし、ここまで来たら今さらしっぽを巻いて帰れない。
流れに身を任せることに。
あっという間に、私たちのグループの番になり、私たちは審査員のいる奥の大部屋へ通された。

審査員席に5人の審査員が座っていた。
全員、フランス人と思われた。
おお、その中には、確かにジャンポールグードがいるではないか。
審査員たちは時おりヒソヒソ話をしたが、審査員たちがチラチラ見ながら私のことを話しているような気がした。
あのブルーの派手なキモノのおっさんは何なんだ、などと言っているに違いない。
いや、ちょっと、待ってください、これは誰でもウェルカムの娯楽イベントです、と私は彼らに訴えたかった。

ダンスオーディション前の最終の打ち合わせ。
日本人ダンサーが登場し、課題の振り付けを私たちに指示した。
隣の女性の話だと、有名な振付師のようだ。
振り付けには指定のルールとパターンがある。
私たちはそれを短時間で全部覚えなくてはいけない。
本番は音楽に合わせ、振り付けを忠実に再現する。
各自創作も認められるが、まずは忠実に再現し、初めて創作も審査対象になるのだという。

しかし、困ったことになった。
こっちはいい年なので、キモノでなくても動けない。
そうこうしているうち本番がスタートした。
草履がつるつる滑ってうまく踊れない。
シューズでもうまく踊れないにきまっているが、草履をはいていたので、草履のせいにすることができる。

オーディション終了。
すぐに結果発表があり、二次選考に行ける人が数人指名された。
しかし、二次選考をパスできるのもまた、数人だけである。
実に、芸術の道は厳しい。
芸術家は難関国家資格以上の天文学的な確率で生まれるものである。
その後、ジャンポールグードも入り、和やかなムードで集合写真を撮った。
1人ずつの記念撮影もあり、その時、係員から「TAKE A CHANCE」の白い記念Tシャツをもらった。
ロッカールームに戻って着替え、オーディション会場の外に出た。
ジャンポールグードの作品が展示されているギャラリースペースがあり、私はせっかくなのでひととおりギャラリーを見てから帰ることにした。


ジャンポールグード展


ジャンポールグード展


ジャンポールグード展


その時ふと思った。
これは考えたくもないことなのだが、こちらの展示会「が」誰でもウェルカムの娯楽イベントなのではないか。
それなら話はよく分かる。

私は勘違いして誰でもウェルカムではない真剣勝負に参加してしまったのではないか。
そう思って帰りがけ別の係員に聞いてみたが、やはり、さっきの係員とまったく同じ答えが返ってきた。

これは誰でもウェルカムの娯楽イベントです。