書棚を整理しているとき、タイムリーな本を見つけて思わず読み耽ることがある。
今回は「債務さもなくば悪魔(Between Debt and the Devil)」というヘリコプターマネーの専門書である。
著者のアデアターナー(Adair Turner)はイギリスの元金融サービス機構(FSA)長官、ヘリコプターマネーの権威、イギリスを破綻させたヘッジファンドマネージャーのジョージソロスの仲間である(`・ω・´)オオ,カッコイイ!!
(債務さもなくば悪魔(Between Debt and the Devil)表紙裏より)
そもそもヘリコプターマネー(helicopter money)とは何だろう??
中央銀行が国債の買入で財政資金を供給し、大量の貨幣を市中に供給すること。
これにより、財政規律を害する、中央銀行のバランスシートは債務超過となるため、中央銀行及びその発行する貨幣に対する信認が損なわれてしまう。
というわけで、ヘリコプターマネーは平時には行われない、劇薬である。
しかし現在の日本人にとって、ヘリコプターマネーとは、なじみ深く重要な話なのだ。
なぜなら、アベノミクス以降、日本銀行が金融緩和(QE)をしており、それがまさにヘリコプターマネーだからである。
通称ヘリマネの典型例としては、新型コロナの流行時に全国民に配られた1人10万円の定額給付金が最も分かりやすい。
まるでヘリコプターで上空から札束をばらまくような、太っ腹で無節操なバラマキの経済対策だ。
その経済効果は極めて大きい!!
そりゃそうだろう。
だが、ヘリマネの副作用、つまり通貨の価値の毀損による過剰なインフレを懸念して反対をする者もいる。
確かに、過剰なインフレなんてそう簡単に起きるものではない。
しかし、床の上に油をまき散らしても直ちに火災になるわけではないから大丈夫ですよ、などという子供だましの屁理屈を聞いて、誰が納得して安心するというのか。
もっとも、日銀のヘリマネのおかげで、アベノミクス以降、日経平均株価は上昇し、都心の不動産価格も上昇し、資産価値の上昇による「富」が生まれたことも事実だ。
そもそもアベノミクスのポイントは、構造改革や三本の矢ではなく、日銀のヘリコプターマネーという1本の矢だったのかもしれない。
日銀のヘリマネにより資産インフレが起きる、資産インフレで豊かになった人たちがその利益を市井で消費に回す、そうすれば街角景気は良くなる。
このメカニズムがうまくいかなくては、どうしようもなかった。
しかし現実には、株で儲けた人たちは株の儲けでまた株を買い、不動産で儲けた人たちは不動産の儲けでまた不動産を買うのが道理なので(人間の欲望は無限大であり、そうなるのはしょうがない)、アベノミクスは、昔からよくある「相場師」や「土地転がし」の儲け話を実現しただけだ。
街角景気が改善せず、実体経済と株価の乖離が起き、それがすっかり常態化した。
そして新型コロナウィルス~ウクライナ戦争~いよいよ、インフレが始まった。
最近の街では、女性のホームレスも見かけるようになり、何とも複雑な気分になる。
では、他の2冊の名著(「バブルの歴史」「大暴落1929年」)が警告するように、バブルは崩壊する、株価は大暴落するのか。
いや、専門家のあいだでは、今回のバブルはそう簡単には終わらない(終われない)と考えられている。
なぜなら、上空のヘリコプターから札束をばらまいている最中に、株価が暴落してしまったら、それこそ日本経済の破綻(!!)だからである。
つまり、「特攻隊」は戻れない、最近の政治のニュースでも、「一億総株主」という言葉が流れたが、そういうことなのではないか。
ちなみに戦時中の政府は「一億総火の玉」と言っていた。
もっとも、ヘリコプターマネーといっても、これ以上何をばらまくのかという感じもする。
なので、これ以上のバブル相場は想定しにくいと私は思う。
以下は、6月第3週終了時点のチャートである。
■⽇経平均株価
(出典・YahooFinance)
6⽉第3週の下落により、6月第4週以降は、①〜④〜⑤と下落基調が継続することが想定される。
25000円を割り込み、④〜⑤に⼊ると、⽇銀の⾦融緩和以来の⻑期の上昇相場が終了したと判断してもよいだろう。
また、その場合は、相場が⼤きく動き、総崩れとなる可能性もある。
もし③に⼊ることがあるとすれば早期の20000円割れも視野に⼊る。
かたや、25000円よりも上で相場が推移し、④〜②に流れ着いた場合、いったんは下げ⽌まったと判断してよいだろう。
ただそれでも当⾯は、②から再度下落が試されることが想定される。
少なくとも2本の右肩下がりの川の中に相場がある限り、下落基調が継続しているとみなす⽅がよいだろう。
■ドル円
(出典・YahooFinance)
年後半、ドル円は、⾚い四⾓の中で、上下動することが想定される。
140円を越えたところからは上昇が困難となるだろう。
しかし、ここを容易に突破し、140円台に定着すると、もう⼀段の円安に備える必要があるだろう。
ところで、⽇経平均株価はドルベースで⾒ると、円安の分だけ、余計に下落している計算となる。
そのため、外国⼈投資家は、現在の⽇経平均株価について⽇銀の⾦融緩和以来の⻑期の上昇相場がすでに終了した、と判断しているかもしれない。
そうだとすると、⽇本株売却、円売りドル買いの流れが⾃然であり、円安なら株⾼になると いう従来の考え⽅はもはやあてにならないかもしれない。
また、株安ともう⼀段の円安のセットも⼗分あり得るのではないだろうか。
まあ、これは、今日明日の危機をあおるような話ではなく、中長期の冷徹な相場予測である。
この歴史的なバブル相場、、、これがさらに延命するためには、例えば新型コロナウィルスの流行で政府が過激なバラマキをして株価が上昇したように、悪いことが起きるほうがいいのか、あるいは、景気が回復するなどの良いことが起きるほうがいいのか。
もちろん、一国民としては後者のほうがいいに決まっているが、地震、台風、津波、戦争など、政府がバラマキをする要因となるものがバブル相場の延命のためには、いい材料となってしまうのは皮肉なことである。
これらは全て、インフレを加速させる要因ともいえるので要注意である。
■WTI原油先物(2022年2月・強い原油高シグナル)
■NY金先物(2022年2月・中立シグナル)
■ドル円(2022年3月・強い円安シグナル)
■米国債10年(2022年・強い金利上昇シグナル)
それにしても、こういう逆相関の事態を私たち1人1人はどのように受け止めればいいのだろうか、、、(*'ω'*)ヨノナカドウナッテルノ!?
アデアターナーは本書で様々に論じているが、「債務さもなくば悪魔」というコワい名前を、かわいい自分の子供(本書)に付けている。
それが、ヘリコプターマネーの真実を示唆しているのではないだろうか。
ただし、和訳された本の帯には「劇薬ヘリマネのススメ」と書いてある。
まず、金融緩和が私たちに何をもたらすのか、ということであるが、資産価格の上昇という正の側面があり、私たちはそれをもう十分に味わった。
次は、もう1つの負の側面を味わうことになるのではないかと危惧する。
ヘリコプターマネーというのは、永遠には続けられないことなのである。
次に、ヘリコプターマネーは平時には行われない劇薬による経済の治療法だが、端的に言うと、お金を生み出す「悪魔」と契約をして、「債務」を際限なく増やすことである。
古典的物語では、悪魔と契約をした者は、、、ええと、最後には、どうなるんだっけ??
そのことについては、経済学者の先生やエコノミストといった専門家の楽観的な話を信じるのではなく、文学少女のお友達に結末を聞き、彼女の話を参考にするほうがいいのではないか。
■日経平均株価(2022年3月)
■日経平均株価(2022年3月・赤丸のゾーンは強い下落シグナル)