2023/01/31

リトルジャパン再訪



2022年1月。
私は所用で両国に行き、その帰り、浅草橋の「リトルジャパン」を再訪した。
以前ブログにも書いたが、3年以上前私が訪問したとき、ここは外国人観光客向けのユースホステルだった。
東京下町の異文化交流の拠点で、1階のカフェバーには国籍も人種も異なる学生たちが集まって、賑やかな飲み会をしていたものだ。
ところが、ランチタイムに入口のドアを開けると、そういう雰囲気ではなかった。
薄暗いカフェスペースでは、数人の若者が打ち合わせをしており、今日は休業日でランチはやっていません、と言われてしまった。

あら残念、この後、どこで食べようかな、、、
しかし、気になったのは店内がやけに薄暗いことと、彼らが浮かない顔をしていること。
話を聞くと、いまここは日本人の若者のシェアハウスになっているという。
コロナ禍で外国人観光客が途絶えたままなのだから仕方ないか。
私は、また今度食べに来ますと言って、店を出た。

さて、この浅草橋、実は東京でも有名な問屋街である。
裏通りを歩くといまは見る影もなく、さびれているビルと看板ばかりであるが、昔の浅草橋はリッチな下町だったという。
しかし、いまやアマゾンや楽天などのインターネット通販の時代、野菜や果物は農協を通さずに売る直販の時代、また流通革命の時代でもある。
少なくとも、問屋や卸売業の時代ではなくなった。
私はここで、商品もサービスも会社も、街も場所も人も、時代が去ってお役目が終われば、変化する必要があり、さもなければ滅びるしか選択肢はない、と思った。

その後、浅草橋の表通りに出た。
蔵前橋通りというのだが、通り沿いに神社(鳥越神社)があり、その境内に入った。
西側の裏門から入り、お参りをして、社務所のある東側の正門へ出た。
神社はいつもと同じ、昔と変わらないなあ、と思った。
コロナ禍でも何の変化も受け入れない、安らぎの場所である。


鳥越神社




その後、私は昼食をとるため日本橋高島屋に行った。
古めかしいエレベーターにエレベーターガールがいる、着物姿の男女が歩いている、グルメ街の飲食店の顔ぶれも相変わらず同じだ。
私はこれまたデパートも、ほとんど何の変化も受け入れない保守的な場所だなあ、と思った。
「LES CAVES DE TAILLEVENT」。
本館8階の有名なワインの店である。


LES CAVES DE TAILLEVENT、マリアカラス


LES CAVES DE TAILLEVENT、フランシスフォードコッポラ


おお、ジャンコクトー、アランドロン、マリアカラス、フランシスフォードコッポラなど、ショーウィンドウの記念写真とワインボトルがそっくり入れ替わっているではないか!!
ちなみに以前は、ウィンザー公爵、クリスチャンディオール、ピエールカルダン、オーソンウェルズなどであった。

結局、私は、7階の呉服売場の奥にある「梅園」ののれんをくぐった。
おや、今日は客が少ないぞ、、、
私は広いテーブル席に座り、今時めずらしい茶蕎麦と、定番のあんみつのセットを注文した。


梅園


梅園のあんみつは、さくらんぼが載っているのが特徴である。
さっぱり系のあんみつみはしとは違って、あんこが濃厚。
ところで、隣のテーブル席には、さっきからお品書きを見て戸惑っているおじさんがいる。
彼はいったい何を注文するのだろう。

「すいません、、、」
「はい、ご注文ですねッ。」
「アイスコーヒー、1つ。」

ほどなくして今度は、ラフな服装で筋肉質の若者2人組が入ってきた。
私とは反対側の席に座り、大学スポーツの話題で盛り上がりはじめた。
この3人の男性、浅草の老舗甘味処「梅園」の客としてはKYもいいところだ。
しかし、決まり事や秩序が、新参者によって破られるのは、本当に悪いことなのだろうか。
破る者がなければずっと変わることもないだろうし、いつしかここも、浅草橋の問屋街のように滅びてしまうと思うのだけど。






2023年1月。
大学の後輩のKさんと一緒に、約1年ぶりにリトルジャパンをまた訪問した。
ご存知の通り、私は終活講座の先生だが、Kさんの場合、「終活」ではなく「就活」の真っ最中である。
就職活動のことで聞きたいことがあるというので久しぶりに会った。
終活講座のとき、私は受講者たちに、「終活は就活とは違って~入る所は決まっていて選べないんですよ」などと冗談を言うのだが、彼はどの会社に入るか迷っているのだった。

リトルジャパンで私たちは、ランチタイムの蕎麦セットを食べた。
どこかの蕎麦職人がリトルジャパンまで出張して作っているのだという。
これが、とてもおいしかった。
館内には外国人観光客の姿もあった。
その後、浅草寺に行き、仲見世で買い物~流行りの抹茶カフェにも寄り道をしたが、どこも混雑しており世間は賑わいを取り戻しつつあるようである。




2023/01/09

少女時代

Gallery NUAGE、Kanami bijoux


浅草の駒形の路地に「Gallery NUAGE」という小さなギャラリーがある。
ここで、ミサキカナさんの個展〜 Kanami bijoux 〜「雲の上のクリスマス」が開催されており、私は夕方見にいった。

Kanami bijouxとは、カナミビジューと読む。
bijouxとはjewelryのこと。

Instagramで関西人の女性が身に着けているのを見て、実物を見る機会があればそのうちに、と思っていた。
店は関西にあると思っていたら都内で活動をしており、今回は浅草の駅近くのギャラリーで短期間の個展をするというので、都内に出たついでに寄ったのだった。


Gallery NUAGE、Kanami bijoux


スタッフはカナさんのほかに、背の高いアシスタントの女性がいて、主に彼女のほうが接客を担当していた。
カナさんは物静かで、人見知りする性格のようだ。
彼女のお友達も遊びに来ていたのだが、1人はカナさんの同級生、もう1人はカナさんの仕事仲間であった。

この4人、服装にも会話にもそれぞれ強い個性があり、話を聞いていると非常におもしろい人たちなのであった。
ユニークというか、何というか、、、彼女たちの作り出す世界は、まるで少女漫画の世界のようであり、彼女たちはその登場人物のようである。
それは男性の私には新鮮で居心地がよく、私は少女たちのプライベートな空間に足を踏み入れて楽しんでいる気分だった。




途中、ギャラリーのオーナー(厚川由香里さん)が、みんなにブラックコーヒーと、メリークリスマスと書かれたミニチョコレートを出してくれた。
彼女たちは椅子に座り、あっという間に食べ終えたが、不器用な私はこの紙包みを開けるのにずいぶん手間取った。
するとカナさんのアシスタントをしている女性が私の肩をポンポンと叩き、気にすることはないからね、と励まされた。
私はこの時、自分がここの客ではなくなったような気がした。

食後、カナさんが私のすぐそばで、ピンを使って売り物のジュエリーの調節を始めた。
そこで私は、ジュエリーデザイナーの手先の器用さを目の当たりにした。
そして、つくづく自分はだめだなあ、と思った。
私は料理をするときにも大根の皮をピラーで剥くような人なので、自分の不器用さをどうこう言うのは今さらの話なのだが、、、


Gallery NUAGE、Kanami bijoux


それにしても、カナさんの同級生で地味な女性のほうは、冴えない古着を着て、ジュエリーを見ても終始つまらなそうな顔をしていた。
カナさんのジュエリーがどれも似合わないかんじの女性で、そもそもジュエリーを欲しがる様子も見られなかった。
しかし彼女は、何らかのジュエリーは買って帰る、と言うのだった。
私は、同級生の義理で買いに来たんだな、と思った。




さて、彼女と少し話した。
私はこの日の午前中、鴎外記念館に行ってきたのだが、彼女が本好きだというので私は森鴎外の話を彼女にふってみた。
すると彼女は、鴎外なんて大嫌い、と言った。

「どうしてです??」
「女から見ると鴎外は自分勝手な男です。東大卒の完璧な男でもあるけれど、私はそういう男性はいけ好かないのよ」
「なるほど、、、」
「太宰治がいいわ。太宰はだめなところがいい」
「だめ、といいますと??」
「せっかく恵まれたものを持つのに、自ら壊してだめにしてしまうようなところです。愚かな生き方だけど、私には何だかその気持ちが分かるんです。私もそういう人間なので、そういうだめな男性に魅力を感じます」
「なるほどぉ、、、そういう男性の好みもあるんですね。私はあなたの話に勇気付けられました♪」

しかし間もなく、そんなだめっぽい同級生を、カナさんは優しく鏡の前に連れて行った。
一緒にアクセサリーを合わせ、これがいい、あれがいいと言い合う2人の姿が仲睦まじく、印象的であった。
なんだか映画のワンシーンのような写真なのだが、Kanami bijoux を身に着ければ、彼女たちはいつでも少女時代を取り戻せるということなのだと思った。


Gallery NUAGE、Kanami bijoux


Gallery NUAGE、Kanami bijoux

2023/01/05

身につかなくたっていいのだ、格好さえつけば!!

ミヅマアートギャラリー、島田雅彦、パンとサーカス展


書斎の資料を整理していたら、去年5月の展示会資料が出てきたので、そのときのことを思い出して書いている。
その資料は、飯田橋のミヅマアートギャラリーの「パンとサーカス展」のものである。

しかし、そもそも「パンとサーカス」って何のことだろう??
Google検索によれば、、、

(Q)
パンとサーカスとはどういう意味ですか?
(A)
《(ラテン)Panem et circenses》食糧と娯楽。 古代ローマ市民がこの二つを国家から与えられて満足し、政治に無関心になったさまを、詩人ユウェナリスが揶揄 (やゆ) した表現。 現代では愚民政策の比喩としても用いられる。

だそうである。

ふむふむ(*'ω'*)
食糧と娯楽・・・すると例えば、マクドナルドを食べながら、メジャーリーグの大谷翔平を応援している日本人は、典型的な愚民??
まあ、かく言う私もそのひとりなのであるが、、、








なるほど、、、去年のこの展示会も、日本国民は愚民だと言っていたのだ。
要するにこれは、原作者(作家)島田雅彦氏の新聞連載小説「パンとサーカス」の挿絵をまとめた共同展示会なのであるが、挿絵画家をしていたのは、水野里奈、岡本瑛里、荻野夕奈、金子富之、熊澤未来子、山本竜基、計6人の気鋭の現代アーティストである。

当時、家に帰った私は、早速、書棚から島田雅彦氏の本を探し出した。
それは分厚い最新作「パンとサーカス」ではなかった。
10年以上前に書かれた「不惑の手習い」という薄くて読みやすいエッセイであった。

おお、これこれ、、、
これ、おもしろい本なんだよね!


島田雅彦、不惑の手習い


このエッセイは島田雅彦氏がその道の一流の先生(師匠)のもとで習い事をするという内容である。
後半では有名なショコラティエのジャンポールエヴァンから、ショコラ・ショ(ホットチョコレート)の作り方を習う。
彼の発見は、「君のために、ぜひ、ショコラ・ショを作ってあげたい」というのが女性に対する強力な口説き文句になるということだった。
というようなことを前もブログ記事で書いたのだが、今回はその続きでもある(2022/05/28「最後は、ハッピーエンディング??」)。

「身につかなくたっていいのだ、格好さえつけば~不惑の手習いとは、アマチュアリズムの追求であり、一目置かれる素人になることを目指す」「他人に笑われようが、真剣に趣味や遊びにかまけてみせるところにダンディの本質がある」

島田雅彦氏はこう書いている。

な、なるほど(*'ω'*)、、、
カッコさえよければ、身につかなくてもいいのですね!
あら、私にピッタリなお言葉♪

私は別にダンディズムの求道者ではない。
が、ABCクッキングの会員でもあるし、ここはひとつ、ケーキコースで、チョコレートケーキの作り方を学んでみようかしら♪♪


ABCクッキング


ABCの会員サイトには、ムース・オ・ショコラ(Mousse au chocolat)、ラズベリーソースを忍ばせたチョコムースにグラサージュをかけて艶やかに仕上げる~と書いてある。
とすると、私の場合、MademoiselleのためにMousse au chocolatを作ります、となるのだろうか(*'ω'*)

また、エッセイの中で島田雅彦氏は二胡を習っていた。
私は、もう何年も弾いていないピアノを、また弾いてみようか♪♪
大人のためのピアノ教室は楽しいと聞いたことがある。
指はそこそこ動きそうだった。
私は書棚にある輸入版の楽譜と、日本版の楽譜を、テーブルに並べた。
エリックサティーの「Je te veux」などがある。


ピアノ楽譜、エリックサティ




そうそう、昔とは違い、外出先で気軽に写真を撮るようになったから、撮影技法を基礎から学ぶのもよいかもしれない。
これはスマホ依存症の現代人のたしなみでもある。
以前ブログ記事(リンク)でご紹介した写真家さんが、定期的にオンラインの写真教室を開催しているようである(リンク)。

また、写真の技法を写真家から学ぶなら、絵の技法をアーティストから学ぶのも、よいかもしれない!!(*'ω'*)
しかし、私は絵心がないので人間は描けないのである。
例えば、絵描き歌のドラえもんくらいしかうまく描けない、、、
それに、今さら水彩画を基礎から習ったり、風景をスケッチしてみても周囲に追い付かないだろうから、どうせなら、開発中の新しい技法、斬新な技法なんかを学んでみたいものだ。

あとは、やはり、ワインである。
ワインの資格試験(WSET3)は、巨大台風と新型コロナウィルスのため、二度の延期を強いられた。
かなり苦労して取った資格だから、引き続き、関わっていきたいものだ。

最後に。
「不惑の手習い」のあとがきより。

「金や地位より教養、素養、これはワールドスタンダードである。そのことは女の方がよく分かっている~女もすなる習い事、男もしてみん」

実は、私も同じようなことを思っていたので、あとがきを読んでピーンと来た。
うん、アーティストと同じで、売れずとも、エッセイストでいいんだ。
あんみつ先生の肩書はエッセイスト。
身につかなくたっていいのだ、格好さえつけば!!、、、ということにしておく(*'ω'*)