2020/10/03

私たちの未来

本は定期的に古本屋に売って減らしてきたが、きのう、久しぶりに本棚を整理した。
雑誌、ビジネス本、文庫本のほかに、マンガの本棚もあり、しばらくそこでマンガをパラパラ読んでから本棚に戻すようなことを繰り返した。
少年漫画で面白い作品というと、藤子不二雄の「ドラえもん」以外にあまり記憶がない。
高橋留美子の「らんま2分の1」や「めぞん一刻」がおもしろいと思うような子供だったので、学生時代、女性向けの漫画に流れ着いた。
私の見立てでは、女性漫画家の作品の方が洗練されており、それを読むと男性漫画家のものは物足りないというか、ダサく見えてしまうのである。

当時は神保町の三省堂や書泉グランデなどへ行き、女性向けの漫画をよく買った。
私は大島弓子と名香智子の大ファンであった。
わざわざ神保町まで行く理由のひとつは、地元の本屋で買うのが恥ずかしいからである。
買ったらブックカバーをかけて読んでいた。

しかし実は、神保町の書店街で買う、もう1つの理由があった。
私は当時、競馬が好きで(学生が馬券を買うのは本当はだめなのだが)、土日はよく後楽園のJRAの場外馬券場(ウィンズ)まで買いに行っていたのだが、馬券を当てた帰りは隣の神保町の書店街まで歩き、おもしろそうな少女漫画やレディコミのまとめ買いをした。
書棚の本を1つ1つ吟味するのは恥ずかしいし、馬券で当てたあぶく銭である。
取りやすい平積みのものをまとめてレジへ持って行き、「ぜ、全部カバーをかけてください、、、」などと店員の女性に言ったものだ。
そういう本のなかに、たまたま入っていたのが大島弓子と名香智子なのであった。


名香智子「翡翠の森」単行本


大島弓子「毎日が夏休み」「すばらしき昼食」単行本


名香智子の作品はいろいろあるのだが、レディースコミックのテイストが多かった。
男性向けの単調なエロ漫画とは違い、なかなか学ぶべきところも多かった。
例えばラブホテルのエレベーターをおりるときに、会ってはまずい相手と会ってしまうことがあるとか、そういう注意点を学んだ。
彼女はシャープでシリアスな画風なのに、しょうもないギャグセンスなので、そこは気に入っていた。

大島弓子については、私は彼女の初期作品のファンであるが、後期の飼い猫(サバ)との私生活を描いたエッセイは彼女にしてはやや物足りない出来だと思う。
ただ、この物足りなさというのは、悪くはない。
大島弓子が少女からおばさんになったのが主な原因である。
私もおじさんの年齢に至ると、こちらの方が気楽に読めていいのである。
もっとも、「毎日が夏休み」は、後期のものの中ではかなりおもしろいと思う。
昔この本を買い、毎日が夏休みならさぞかし楽しかろう、と思って期待して読んだのだが、そういうわけでもないのだな、と思った。

さて、レディコミのほかに、いわゆる「やおい」と呼ばれるジャンルがある。
コミケの二次創作などもあるみたいだが、私はその手の本はよく知らない。
しかし、そういうことを取り上げた解説本を何冊か読んだことがあって、たいていはサブカルチャーの本なので、そのうち私はサブカルチャーの本を何冊か読むようになった。
当時は岡田斗司夫氏、宮台真司氏あたりが売れっ子で、世の中には気難しい人がいるなあ、と思ったものだ。

ある日、何となく三省堂で東大卒の社会学者宮台真司氏の本を立ち読みした。
宮台氏の本を買うくらいなら、私は上の階で少女漫画を買って帰る派なので立ち読みで済ませたのだが、この時すでに、彼は21世紀の日本をほぼ言い当てていたと思う。
これからの時代の若者たちがどう生きるべきかがテーマで、「終わりなき日常を生きろ」とか書いてあった。
文章を読んでもイミフメイ。
しかし、何かを目指したり成し遂げようとしたりするのではなく、死ぬまで単に平凡な日常を送るんだ、というような内容だった。
これは、バブル崩壊後の閉塞した社会の中での若者の新しい生き方の指針でもあった。
私は学生だったので、人生はつまらないがそういうもの、毎日淡々と生きりゃいい、と理解し、「諦めが肝心」と似たような言葉かなと締めくくった。
しかしその後は、1995年の地下鉄サリン事件、阪神淡路大震災、1997年の山一證券の破綻、金融危機と最悪の時代に突入し、ようするに、終わりなき日常を生きるのもかなり大変な日本社会になっていくので~という文脈で理解するようになった(よく知らないが多分こっちのニュアンスなのでは??)。

これからの私たちの未来は、「終わりなき日常」「毎日が夏休み」の反対に向かおうとしているのだと思う。
戦後の長い平和主義の時代、平穏が保たれていた平成不況の時代は間違いなく終わる。
そういう時代を基準にすると、日常とは平穏かつ平凡、淡々と続くものと思いがちだが、これからの日本はそうではない。
終わりなき日常は突然に終わり、夏休みのような平穏な毎日は続かなくなる。
令和の日本、あるいは自分自身の人生にも、そんな未来がもうそこまで迫っている。

まあ、そうなると私たちはサバイバルの時代を生きることになるから、男性でも料理くらいはできなくてはなるまい。
こないだ私は、ABCクッキングでお弁当を作ってきた。
弁当作りは初体験だったが、せっかくなので近くの公園のベンチで食べた。
太陽を浴びながら、秋風に吹かれ、それはそれは「すばらしき昼食」ではあったが。


ABCクッキングの肉弁当


ABCクッキングの肉弁当