2018/12/23

まんじゅうこわい

クリスマス前に、借りた数冊の本を返却するため、慶應の三田図書館に行ってきた。
この時は本を借りた後、図書館近くの南館の「ファカルティークラブ」でランチを食べた。
昔懐かしの学食「山食」でもよかったが、生協の方までぐるっと歩くのはめんどうくさかった。
「ファカルティークラブ」は教職員塾員用のレストランである。
学生時代、ゼミの教授に何度かごちそうになった記憶があり、何やら特別な雰囲気で貴族的なレストランという記憶があった。


慶應三田図書館


図書館を出て、狭い道を少し歩くと南館にすぐ着くのだが、ファカルティーの手前にホールがあり、大扉が開放されていた。
受付と書かれた長机があり、女の子が忙しそうに準備をしている。
ただ、案内が出ておらず、私は彼女に何のイベントをするのか聞いた。

「ステージにピアノがあるけど、ピアノクラブのコンサートかなにかですか?」
「ええと、午後から慶應文連の発表会なんです。ピアノの演奏もありますよ。ぜひ見て行ってください。」
「無料ですよね?」
「はい。」
「じゃあ、食べたらまた来ます。」
「お待ちしています。」






ファカルティーでお昼を食べ、コーヒーを飲んでくつろいだ後、早速さっきのホールへ。
しかし意外にも、ホールの席はたくさんあるのに、わずか5~6人の高齢の男性が離れて座っているだけだった。
慶應文化部のOBたちかな。
閑散としており、大学生が1人も見に来ていないのはきっと土曜日だからかな。
それにしても、観客がこれでは発表する学生も張り合いがないのでは。
しかしその後、女子大生が数人、後ろの方に座ったので、少し雰囲気が花やいだ。
初めてだから分からないが、まあ、地味な文化部のイベントだからこんなものなのかなあ。


講堂


舞台は3時間にも及んだ。
ピアノクラブの演奏会、落語研究会の寄席、アメリカンポップスのグループのバンド演奏など、その中でも落語研究会の寄席がおもしろかった。
落研の部長で第14代目乱痴(らんち)さんが、「まんじゅうこわい」を披露した。
まんじゅうこわいは、私が生まれて初めてナマで聞いたネタなので、ああ、これか、とすぐに思い出した。
このネタは、今日の観客、つまり年配者向けではないと思うのだが、バカバカしい系のネタであり、大学生のような若い落語家には合っていた。

全ての出し物が終わったのは夕方4時過ぎであった。
終了後、ファカルティークラブを貸し切り、懇親会をするという。
予約なしでも慶應の人なら飛び入り参加OKと言われた。
私も5000円払って懇親会に参加し、解散まで食べ放題をつまんで初対面の人たちと話しこんだ。
この時に知ったのだが、客席にいた数人の高齢者は、みなさんかなりの大物であった。
なるほど、これならたった数人の観客でも豪華メンバーである。
また、懇親会をとりまとめていたカタブツそうな4年生に、どこに就職するのかを聞いみてた。
すると出版社に内定しているという。
講談社、集英社あたりかと聞いたら、ベンチャー企業ですとの答え。
へえ、斜陽の出版業界にベンチャー企業なんてあるんだな、と思ったが、他の学生の就職先も聞いて思った。
何だか自分たちの時代とはずいぶん変わったなあ。


ファカルティークラブ


ファカルティークラブ


懇親会が終わり、キャンパスを出る頃には午後8時を過ぎていた。
私は正門から国道1号線を歩き、三田3丁目の横断歩道を渡り、銀行のわき道の商店街に入り、飲み屋の並ぶ狭い通りをぶらぶら歩いた。
途中、食べたことのある店を何軒か見つけた。
いまだに店が残っているとはね。
まあ、20年前のことだから、残っている方がふつうかしら。
歩道橋を上がり、田町駅へ。
私は学生時代と同じように、京浜東北線に乗り込んだが、つり革につかまって何ともいえない懐かしさを感じた。
電車の窓ガラスに映る自分はすっかり年を取っている。
しかし、気持ちの方はそうでもない。

この世の中に怖いものなどあるものか。
本当に?
いや、本当はある、、、
本当は何が怖いの?
ま、まんじゅう、、、

怖いのは年を取ることではなく、気持ちが年老いることだと思う。