2019/06/06

The Chronicle of Noble Lady(1)東劇メットライブビューイングオペラ、ヴェルディー「椿姫(La Traviata)」

2019年2月8日。
私は東銀座の東劇のスクリーンで、ヴェルディーの名作オペラ「椿姫(La Traviata)」を見た。
これは、ニューヨークメトロポリタン歌劇場の生公演を録画編集した、オペラ映画の上映会である。
生公演より格安で超一流の海外オペラを堪能できてしまうのがセールスポイント、メットライブビューイングオペラと呼ばれ、世界的に人気がある。
今回の椿姫はディアナダムラウ(Diana Damrau)であった。
彼女は世界で最も人気と実力を兼ね備えたオペラ歌手のひとり。

さて、この日私が、東劇で出会ったおばあちゃんをIさん(仮名)としよう。
「椿姫」が終わり東劇のラウンジに出た私は、スロープの壁に張られた舞台写真をスマホで撮影していた。
するとそこにIさんが近づいてきて私に声をかけてきたのだ。


ディアナダムラウ

 


「あ、いたいた。ねえねえ、ちょっといいかしら。」
「な、何でしょう?」
「あなた、私の記念写真も撮ってほしいんだけど。」

いきなり、ねえねえと言われても困るなあ。
私、おばあちゃんからナンパされてるわけじゃないよね。
見知らぬ白髪の女性、近くの席にいた人かな。
いや、記憶にない。

まあ、とりあえず、ディアナダムラウの舞台写真をバックに、Iさんの記念写真を撮ったのだが、今度は東劇の職員が私たちのところに来て、せっかくなので、お二人の記念写真も1枚どうでしょうか、と言われた。
私たちはツーショット写真を1枚撮ってもらった。
職員はすぐに立ち去り、私のスマホで撮った写真をIさんにどうやってあげようか、という話になった。
私はIさんに連絡先を聞いた。
するとIさんは、手っ取り早くラインで送ってちょうだいと言い、私たちは出会っていきなりライン友達になってしまった。

その後はまさかの展開に。
Iさんが突然、私はダイアナと親しいのよ、などと言い出した。
そしてなんと、高級ホテルの部屋で撮ったダイアナ(ダムラウ)との記念写真を私に自慢げに見せてくれたのだ。

私は驚くと同時に、ダイアナのことを聞きたくなった。
私には、目と鼻の先のエレベーターホールまで行くのもひと苦労に見える。
一体どうやって家まで帰るつもりだろう。
が、それよりも、杖をついて歩くIさん、無事1人で帰れるのだろうか。
私には、目と鼻の先のエレベーターホールまで行くのもひと苦労に見える。
でも、ここまで1人で来たなら、帰りも1 人で大丈夫だとは思うけど。

おや、おばあちゃんのかばんに付いているのは、最近よく見かける赤十字のヘルプマークではないか。 




「あのう、おばあちゃん、まさかその足で東銀座の駅まで歩いて行くの?」
「うーん、駅はちょっと、遠いわね。」
「交差点でタクシーを拾うんですか?」
「そうね、タクシー。でも夜の大通りは混んでるから、うまく拾えるかしら。」
「では、ご一緒しますから、私が拾いましょうか?」
「あら、親切ね。あなた、手伝ってくれるの?」
「別にいいですよ。」
「ありがとう。お願いするわ。」
「ところで私はこの後、文明堂カフェに行くつもりなんです。お急ぎでなければ、お茶でもご一緒しませんか?」
「あらまあ~、もちろん、いいわよ!!」

Iさんと一緒にゆっくり歩き、歌舞伎座のそばの文明堂カフェへ。
ラストオーダーのまぎわで数組の客しかおらず、私たちは静かな席で30分ほど話すことができた。


文明堂カフェ