2023/10/18

トゥーランドットは求婚されるとその男を殺してしまう!

東劇でMETのオペラを2本見てきたのは、9月のことだ。
そのうちの1本は、定番中の定番、プッチーニの「トゥーランドット(Turandot)」である。

プリンセス・トゥーランドットは中国の紫禁城で父親とともに暮らす絶世の美女で、常に他国の貴族や王子などから言い寄られている。
ただ、強烈な男嫌いで、全ての男たちを拒絶している。

トゥーランドットは求婚されるとその男を殺してしまう!

拒絶にも限度があると思うが、残忍で冷酷な中国のプリンセスということで、業界有名人(?)となっている。

彼女は求婚者に3つの謎かけをする。
全問正解なら結婚すると約束をするが、難問なのでどうせ解けないのだ。
これまで挑戦者の男たちは全員処刑され、城下町の道ばたにその生首が吊るされている。
今回は、戦争に敗れ放浪中のカラフ王子がトゥーランドットにひとめぼれをし、3つの謎かけに挑む。

そんなストーリーである。




トゥーランドットはプッチーニの遺作で、「誰も寝てはならぬ」が有名だ。
このアリアは第3幕でカラフが歌うものだ。

誰も寝てはならぬ。
誰も寝てはならぬ。
お姫様、あなたも同じ。
冷たい寝室で(ひとり孤独に)、眺めているのか、(夜空の)この星々を。
(彼女は)愛と希望に打ち震えている。

しかし私の秘密は胸の内に閉ざされたままです。
誰も私の名前を知ることはできません。
しかし、私はあなたの唇に誓います。

太陽の光が輝くとき、私の口づけがあなたを溶かすでしょう。
あなたの沈黙を破るでしょう。
そしてあなたは私のものになるでしょう。

確かこんな歌詞であった。

その後、ストーリーは下記のように展開する。
トゥーランドットの3つの謎かけをカラフが見事正解し、結婚が事実上決まったにもかかわらず、プリンセスはなお結婚をしぶる。
誰もカラフの名前を知らないからである。
愛する者の名前を呼べなくてはプリンセスは永遠の愛を誓えないし祝福もできない。
さて、どうするか。

するとここでカラフは、もし夜明けまで自分の名前が判明しなければ結婚、判明すれば自分は死ぬと誓うのである。
いきなりそう言われてもプリンセスの方もかえって困ってしまうが、ほとんどヤケクソで(と思われる)、彼女は国民に向け、彼の名前が判明するまでは誰も寝てはならぬ、と命ずるのである。
そして、もし判明せずに夜が明けたら国民を皆殺しにするという無茶苦茶な命令を出す。

唯一彼の名前を知っていそうなのは、カラフの家臣の娘リューである。
彼女はカラフに片想いをしているが、プリンセスに拷問されても黙秘を貫き、彼の幸福のために死を選ぶ。
これで脈がなくなり、プリンセスの負けとなる。




彼女が求婚者を殺すのは、誰からも支配されたくないからである。
私は男には絶対に服従しないという。
が、そのような感情は、先祖のロウ姫が男に弄ばれた悲劇、つまり彼女の過去のいまわしい記憶から来るもので、彼女は激しい恋をするたび、そのいまわしい記憶にさいなまれて拒絶していた。
こんなかんじでトウーランドット姫の心情や動機の説明がなされるが、プリンセスの今回の拒絶は本心からではなかったと思われる。
第1幕ではトゥーランドットはじっと黙ったままだったが、それはかえって彼女の好意を示唆しているようにも思える。

彼女は実は愛に飢えており、彼の愛に応えたかった。
が、愛に対して臆病すぎるため、いつものように拒絶してしまった。
男女の出会いは不思議なもので、出会ったときに本能的に運命の出会いと感じることがあっても、それはそれで恐いのである。
彼女の彼に対する強い憎しみは強い愛の裏返しである。




東劇の帰り道、私は歩行者天国を歩き、コンビニと喫茶店を探して西銀座のほうまで歩いた。
古びた商業ビルのあるガード下の交差点で、出勤途中のクラブのママを数人見かけた。
女は真実の愛に賭け(男がそれに)敗れたとき、クラブのママになるのではないか、私はふと、そんなことを思った。
偽りの愛の相手と結婚し一生を共にするよりは・・・誰とも結婚しないほうがいいということだ。
でも、ちょっとこれは、彼女たちを美化しすぎだろうか。

まあ、それはさておき、後日。
私は日本ソムリエ協会のブラインドテイスティングコンテストの決勝戦を見に行った。

場所は目黒の雅叙園東京。
会場に到着したのは12時30分。
決勝戦は14時過ぎからだったが、13時から一部の観客向けに、ブラインドテイスティングの「プレ」イベントがあった。

私はそれにも参加したが、ぜんぜん当たらなかった!
WSET3保有者であるにもかかわらず、情けない、、、








テイスティングしたワインは3種類。
1問目は正解だったが、2、3問目は不正解だった。

答えを聞くと、難問ではなかったが、問題を3問全て正解するのは難しいものなのだ。
もし私がトゥーランドット姫の美貌にひかれて求婚し、3つの謎かけを出されたら??
アッサリ処刑されて終わったかも。。。

自分の専門分野でもそうだが、試験問題を作るより、試験問題を解く方が大変である。
知識を駆使すればどのような問題でも作れる。
ただ、解くためにはリアルタイムで受験生として練習や訓練をしていないとダメなのだ。
その点、ブラインドテイスティングコンテストの出場者たちは、常に練習や訓練をしているから、見事に当てられるのであろう。






テイスティングコンテストが終わったのは4時過ぎ。
雅叙園の帰り、カフェでコーヒーを飲みながら手帳を開いた。
このとき、私は1週間前に見たトゥーランドットのことを思い出した。
幕間でナビゲーターの女性が、歌手のクリスティンガーキー(トゥーランドット役)にインタビューするくだりがあるが、このくだりについて、手帳にメモが残されていた。

「あなたはご自分の役をどう解釈していますか?」
「一般的にトゥーランドット姫は冷酷で残忍な女とみなされています。しかし、人は誰しも仮面をかぶって生きているのです。本当の彼女はそのどちらでもないわ」
「では、どうしてあんなひどいことをしたのかしら?」
「彼女がカラフの愛を断固拒絶したのは、彼女がとても心優しくて臆病な性格だからよ」
「どういうこと?」
「彼女は怯えつつも大きな幸せを求め日々情熱的に生きている女性なの。それをカラフが鋭く察知し、強引に結婚を迫ったのよ」
「なるほど。ところで、この2人、将来、幸せになれるでしょうか?」
「そうねえ、未来のことは分かりませんが、、、」彼女はユーモアたっぷりに客席の私たちを指差して、最後にこう言った。「私は、彼らが幸せになれると信じます!」