2025/04/14

(第5部)The Lady Eve

少し前の話だが、先々月のこと。
昭和女子大学の現代ビジネス研究所で、研究員の成果発表会と懇親会があった。

その帰り道、私は、三軒茶屋から地下鉄を乗り継ぎ、六本木に行った。
麻布台ヒルズの方の交差点の手前に、株式会社アクシスのビルがある。
ここにあるアクシスギャラリーで、昭和女子大学の環境デザイン学科の卒業制作展が開催されているというので、まあ、せっかくなので、一度、見てみたいと思ったのだ。






パンフレットには、環境デザイン学科のプロダクトデザインコースを専攻する学生たちの作品、と書いてあった。
ギャラリー内は、思ったより広く、お客さんもたくさん来ていた。

私は、1つ1つ、学生の作品を見ていった。
すると、、、歩いているうちに、なんだか、学生って、スゴイ!と、すっかり感心してしまった。

まあ、タテマエとして、大学は学問をする場所ということなのだが、いまは情報化社会であり、インターネットを使って自力で勉強ができる。
わざわざ高い授業料を払って通学制の大学に行き、そこで学問というものを権威の教授から教わる意義は、失われてきていると思う。
だから、私には、手を動かして丹念に何かを作ることのほうが、学生にとって価値のあることだと思えたのだ。

その後、ふと立ち止まった場所。
そこには、数枚の素敵な映画ポスターが飾られていた。
どの映画ポスターも、とてもイイものなので、私は、立ち止まって、ぼんやり眺めた。
すると、作者の女子大生がうしろからやって来て、私は、彼女から声をかけられた。
私は、彼女から絵の解説を聞くと同時に、この映画の監督のカウリスマキのことを、いろいろ教えてもらった。

アキ・カウリスマキ(Aki Kaurismäki)は、フィンランドの映画監督である。
小津安二郎などの日本の古い映画に強い影響を受けている。
彼女のポスターは、カウリスマキの映画のワンシーンをモチーフにしているといっていた。




カウリスマキの映画は、場末の映画館でやっていそうなテイストである。
オシャレでもモダンでもなく、女子大生好みのものとは思えなかったが、彼女は、カウリスマキのファンだといった。
カウリスマキの作品は、リアリズムの深刻な内容であるが、もしかすると、それが逆に、女子大生のツボにハマるのかもしれない。

帰りは、六本木駅から日比谷線で、上野に出たが、電車のなかで、私は、昔の映画のことを考えた。
私は、カウリスマキの影響された、小津安二郎の映画を、何本か見たことがある。

何だか、昔の名画を見たい気分になってきた。
どんな映画を見ようか。




家に帰って、書棚をあちこち探すと、書籍の間に挟まっている、1本の古い名画のVHSビデオを見つけた。
誰か(昔のエッセイスト?)が、イイ映画だと言っていたので、ビデオ屋の安売りで買って、見て、書棚の奥にしまったままだった。

これは、「レディ・イヴ(The Lady Eve)」(1941年)というハリウッド映画である。
監督は、プレストン・スタージェス。
主演は、バーバラ・スタンウィック×ヘンリー・フォンダ。
当時の名監督、名優のコラボだ。

要するに、ラブコメなのだが、ロマンティックコメディーともいわれる。
映画の舞台は、洋上の客船である。




ジーンは、なみ外れた美貌の持主だが、野蛮で凶暴、強欲で、嫉妬深い。
実は、彼女の職業は、詐欺師(!)なのである。
父と一緒に船旅をして、エモノを探しているところだ。

今回は、客船のなかで、チャーリー(チャールズ)という金持ち男に狙いを定める。
チャーリーは、蛇の研究をしている。
少し前までアマゾンの奥地に滞在し、蛇の採取をしていた。
蛇と一緒に船で帰還するところだ。

現在のところ、彼は研究に夢中で、女に関心がない。
そのため、船客の若い女たちは、彼を誘惑するが、うまくいかない。
そこで、ジーンは、彼の気を惹くため、どうしたかというと、以下は、私の記憶によるものだが、、、

船内のカフェのテーブル席で、ジーンは、コーヒーを飲みながら、虎視眈々と、彼を待ち伏せる。
彼が歩いて来ると、彼の目の前の床に、ひらりとハンカチを落とす。
すぐさま自分で拾おうとして見せるが、そのさい、目の前の彼の足を突っかけて転ばせる。
ハデに転倒した彼は、起き上がって彼女を見つめ、ひと目惚れをしてしまう。




以下、「 」の記載は、Wikipediaより。

「ジーンは自分の前を通ったチャールズをつまずかせて転ばせると、彼はすぐに彼女に夢中になる。チャールズが船室に持ち込んで籠から逃げ出した本物のヘビに怯えてジーンが逃げ出した後、2人は彼女の船室で「お熱い」間柄になる。チャールズの世話係であるマグシーは、ジーンがチャールズから物を盗もうとしている詐欺師ではないかと疑うが、チャールズは彼の言うことに耳を貸さない。その後、チャールズを詐欺にかけようと目論んでいたにも拘わらず、ジーンはチャールズと恋に落ち、カードゲームでチャールズを嵌めようとする彼女の父親からチャールズを守る。マグシーは父娘の正体を掴み、船長から手に入れたジーンたちの手配写真をチャールズに見せたところ、チャールズはジーンから去る。」

なるほど、、、いろいろ思い出してきた(*'ω'*)

野蛮で凶暴なジーンは、まるで好きな男に絡みつく蛇のような女である。
彼女の考え方は、こうである。
アタシに興味を示さない「あの男」を惚れさせるには、思い切り、噛みつけばいい!
噛みつけば、血を見ることにはなるが、彼は私の顔をよく見て惚れる、私のことばかり考えるからだ。

目論見どおり、彼は、ジーンに夢中になる。
しかし、チャーリーの世話役マグシーに、詐欺師であることを見抜かれてしまう。
マグシーから秘密を聞かされたチャーリーは、失望し、ジーンのもとを去る。
ジーンは、チャーリーに、二度と近付くことができなくなる。

しかし、彼女は諦めない。
秘密を知られたこと、恥をかかされたことへの怒りがわいてきて、彼に復讐する計画を立てる。
実は、彼女は、チャーリーのことが好きなのである。
彼への強い復讐心は、彼女の強い好意の裏返しであり、執念である。

では、二度と接近できなくなった彼に、彼女が接近する手段とは何か?

それは、変装することであった。
ある時、彼女は、上品な令嬢レディー・イヴとなり、彼の前に再び姿を現す。

これが、名画「レディー・イヴ」の本筋である。




以下、「 」の記載は、Wikipediaより。

「侮辱されたことに激怒したジーンは、コネティカット州の富裕層を詐欺にかけてきた別の詐欺師、アルフレッド・マグレナン・キースの姪である上品なレディ・イブ・シドウィッチになりすまし、チャールズに再度接近する。ジーンはイギリス英語を操りつつ、チャールズを容赦なく苦しめることにする。彼女の言葉を借りれば、「私には彼に関してやり残した仕事がある。斧が七面鳥を必要とするように、私には彼が必要なのだ」ということである。」
「チャールズは「レディ・イブ」に出会ったとき、彼女がジーンに似ていることに非常に驚き、何度もつまずいて転んでしまう。マグシーは「彼女はあの時の女性だ」と言い聞かせるが、チャールズはジーンがチャールズに近付いて来るなら、もっと徹底的に変装して来る筈ではないか考える。そして、アルフレッド卿が、レディ・イヴはジーンの生き別れた妹であると話すと、チャールズは納得する~」(後略)

チャーリーは研究者で、穏やかで善良で、人を信じやすいタイプだ。
そのような彼とうまくいくのは、ジーンのような、正反対のタイプの女なのかもしれない。

では、レディー・イヴ・シドウィッチのような美女が本当にいて、付け狙われているとしよう。
ある時、彼女は、別人となって、目の前に現れ、こう言う。

私には、大震災で生き別れた双子の姉がいる。
私は、姉とは違い、裕福な家に引き取られ、上品に育っている。

どう見ても、野蛮で凶暴な姉とソックリだが・・・こちらは、気性が穏やかで、愛らしい妹!?

彼女の過去の説明は、やけに合理的で、信用されてしまう。
これにより、彼女は、まるで違法な資金がマネーロンダリングされるかのように、まったく新しく、清らかで美しい過去を持った、別の女として生まれ変わるのである。