2019/04/28

especially for you

2019年1月。
私は、日比谷ミッドタウンのレクサスカフェのカウンター席で、ランチを食べようとしていたが、突然、隣の女子から話しかけられた。

彼女はHさんと名乗った。
S大学の学生証を所持している。
4年生だが、卒業前なのにまだ就職が決まっていないという。
この時、私はたまたまスーツを着ていたのだが、彼女は私をどこかのベンチャー企業の偉い人だと思って就職先のあっせんを期待している様子だった。
しかし何たる唐突の話か!!


ミッドタウン日比谷


その後も彼女は話し続け、私はランチセットに手を付けられない。
私は彼女の身の上話まで聞いた。

会っていきなり、いろいろ言われてもねえ、、、
いや、待てよ、これは逆ナンの新しい手口なのかしら(*'ω'*)!?

そのうち彼女は、自分は美術館巡りが趣味で、これから三菱一号美術館に行きたい、行き方を教えてほしいと言い出した。

三菱一号館美術館??
そんなの、ここから歩いてすぐじゃないか。

しかも、道が分からないという彼女が、かばんから取り出したのは三菱一号美術館のパンフレットであった。
彼女はパンフレットを私に見せてくれた。

う~ん、なんだかなあ、、、
パンフレットには詳しい地図が書いてあると思うのだが。

私はその地図を指さし、丁寧に道を教えた。
すると彼女は明るい声で、今から歩いて行ってきますと言って店を出て行った。

いやいや、これは新年早々、かなり、意味不明な出来事だった、、、


ミッドタウン日比谷


ここでようやく私は冷めたランチを食べることができたが、彼女は去り際、就職活動用の名刺をくれたのだが、そこに気になる記載があった。
後日私は彼女のことが気になり、どうしているかメールで聞いた。
彼女の名刺には「〇〇〇出版代表」と書いてあり、まだ彼女は起業したわけではなく、もしどこにも就職できない場合は起業して出版社の社長になる、と言っていた。
ようするに私は、名刺に書かれた出版社を実際に始めたのか、と彼女に聞いた。

数日後、彼女から弱気な返事があった。
毎日家にいるという。
まあ、漫画家志望なので、もともとひきこもり体質なのは分かるが、、、この人、大丈夫かしら(*'ω'*)??

その後はあちらからメールが届くようになり、その内容から本当にひきこもりになり得るな、と思って、私は彼女に対して企業イベントに行かないかと誘った。
イベントで名刺を配って自己アピールをするといい、ということがひとつと、もう1つは単に外に出ることがいまの彼女には必要ということだった。

女子大生が出版社を始めるというのですから、みなさん、興味を持ってくれると思いますよ♪♪

3月のある朝、私たちは新橋駅で待ち合わせた。
東京ビックサイトまでゆりかもめで一緒に行った。
私たちは混雑する狭い車内で雑談した。
やっぱり漫画家になりたいです、と彼女は熱っぽく言った。
そこで、どこかに就職して働きながら地道に漫画家を目指せばいい、と私が言うと、彼女はそもそも、あくせく働きたくないという趣旨の受け答えをした。
私は、せっかく連れて来てあげたのに、と思って腹が立つと同時に、がっかりした。


東京ビックサイト


少し険悪なムードのままビックサイトに着き、私たちは企業ブースを回ったり、セミナーを聞いたりした。
しかし彼女は、私以外の他人と話すときは終始挙動不審なのである。
何だかおかしいな、彼女には何か秘密がある、そう思うようになった私は、駅までの帰り道、彼女にいくつかの質問を投げかけた。
そこでようやく彼女は、自分にはコミュニケーションの病気があると打ち明けた。

ああ、そういうことか。
これまでのやりとりも全て、納得である!!

4月。
諦めたのかな、、、彼女はまったく、働く気がない様子だ。
私の手元には、トヨタマスタープレミアムコンサートのペアチケットがある。
ちょうどいい、彼女を誘ってみよう。


東京オペラシティ


私たちは夕方、初台駅で待ち合わせた。
東京オペラシティーの地下1階のグルメ街で、夕食をとり、その後、ふたりで武満徹のレリーフの前で記念写真を撮り、指定席を探した。
私たちの席はカップル向きのすみっこの席だった。
そこは舞台を見下ろせる絶好の場所。
開始まで私たちはたわいのない話をして過ごした。


タケミツメモリアル


トヨタマスタープレミアム景品CD


コンサートが始まった。
クラシック初体験の彼女は、演奏が始まると退屈そうな表情になり、そのうち隣で寝てしまった。
まあ、初めてでは仕方がないか。

コンサートの前半が終わり、私たちはラウンジに出た。
しかし私がコーヒーを飲んで休んでいる間、彼女は化粧直しをしてきたのだが、戻って来るなり、もう出たい、と言った。


東京オペラシティ、タケミツメモリアル


東京オペラシティ、タケミツメモリアル、ホワイエ


私は彼女にこう告げた。

いつもあなたは自分勝手ですね。
私は後半も聴きたいので帰りません。
退屈ならあなたひとりで帰ったらどうですか。

すると彼女はハッとして、すみません、と小声で言うと、かばんを持って本当にすぐ帰ってしまった。
あっという間の出来事であったが、それでも彼女は帰り際、お菓子のプレゼントを私に手渡していった。
素敵な袋に貼られたシールには「especially for you」と書いてある。
私は、なんだかつまらない喧嘩をしたなあ、と思った。

というわけで、後半は結局、私だけコンサートを聴いたのだった。


トヨタマスタープレミアムコンサート2019