2022/01/09

ギャラリー椿と同じビルの会社さん

去年10月のことだが、取手市の寺原駅前の研修施設で、起業家向けのイベントSVS(サムライヴィジョンサミット)が開催された。
主催者は、六本木の独立系ベンチャーキャピタルの株式会社サムライインキュベートである。
ご縁があって私は、このイベントの裏方(ボランティアの運営スタッフ)をしたのだが、当初の開催予定は8月、それが緊急事態宣言で10月に延期された。


SVS、サムライインキュベートの榊原社長


SVS、サムライインキュベートの榊原社長


朝9時30分開場。
運営スタッフの私たちは8時集合で、小雨の降りしきる真冬なみの気温と冷たい風で、1日中外にいると風邪をひきそうなくらいの寒さだった。
でもまあ、熱射病で死ぬかもしれない8月の炎天下よりはマシだろう。
集まったボランティアは30~40名ほど、私たちは外廊下の屋根の下で、指示があるまで待った。
すると、先ほどから拡声器を持ってうろうろしている元気なおじさんが、私たちに声をかけてきたのだが、何とこの人が、サムライインキュベートの榊原社長であった(写真の赤い丸の人!!)。
ベンチャー企業の社長ということで、話してみるとやっぱりユニークな人であったが、拡声器片手の人を相手に長話はしにくい。
それにしてもマスコミの友達から、榊原さんのトレードマークは拡声器と聞いていたが、まさか目の前にいたとはね。

さて、この研修施設の名前はICIという。
incubation、cultivation、innovationを合わせた造語のようなのだが、ここは廃校となった白山西小学校の跡地なのである。
前田建設が市から買い取り、リノベーションで作られたいくつかの建造物が、切り立った高台に建っている。
眼下には広い校庭があり、私たちのいる場所からも見下ろせるが、この日の校庭は朝もやが、校庭の向こう側の山には濃い霧がかかっていた。
また空気は澄んでおり、まるで山奥の小学校に来ているようだった。
私は受付で、運営スタッフマニュアルとサムライと書かれた濃紺のシャツを手渡され、校舎内のロッカールームに移動して着替えた。
その後、着替え終わった私たちはスタッフ向けのガイダンスに参加した。
ここでグループ分けをされ、道案内や受付などの簡単な仕事を与えられた。
しかし、仕事といっても、10ページ程度の運営マニュアルに従ってすればよい軽いものだった。

あれ、そういうことなの??

つまり、ボランティアの運営スタッフとは、見方によっては入場料無料でイベント会場に入れる幸運な人ともいえるのである(ちなみに、入場料は1人5000円)。
仕事を効率的に分担し、空き時間を作り出せば、そこは各自の自由時間なので好きなセッションを見に行っていい。
メイン会場の講演会やトークイベント、校舎の各教室での勉強会など、様々なセッションが開催されており、事前に申し込んでおけば参加可能である。

じゃあ、私はどこへ行こうかな、、、暖かい教室のセッションがいいのだけど。

しかし、どのセッションも満員で、また、読者のご想像のとおり、お気楽者の私は事前予約などしていなかった。
ああ、もったいない!!


ICIの食堂のメニュー


そういうわけで私は、午前中、外の交流スペースの受付を担当し、午後は社員食堂の出入口の道案内を担当したのだが、セッションを見たがっている大学生R君の代わりに道案内を余計に担当してあげたりして、私は夕方まで社員食堂の出入口で門番のように立ってばかりいた。
そして日が暮れる頃には、前田建設の社員でもないのに私は、ここの社員食堂にやたら詳しくなってしまった。


ICIの食堂


おや、食堂の壁に、交通系カードの案内図が掲示されている。
社員食堂の決済方法は、Suica(スイカ)などの交通系カードによる、と書いてあった。
ただし、どういうわけか、PiTaPaのみ使用不可。
関東圏の私は、Suica(スイカ)、PASMO(パスモ)、ICOCA(イコカ)の3種類しか知らないが、PiTaPaとは「ぴ・た・ぱ」と読むのだろうか。
何だかサロンパスの類似品みたいで、自動改札に詰まりそうなカード名である。
私は後学のため、交通系カードの案内図を撮影した。




その他にも、入口付近の洗面所の壁に、「アートシンキング」に関する解説と動画のQRコードがあり、私はこれにも興味を持った。
アートシンキングって、もしかして対話型鑑賞のこと??
早速、スマホでこの動画を再生してみた。
すると、私がアートコミュニケーターをしているアトレ取手のVIVAで言うところの対話型鑑賞とはぜんぜん違う話だった。

アートシンキング(art thinking)とは、アーティストの思考回路からイノベーションのネタを見つけようという脱常識思考のことである。
例えば自分の10年後の姿を画用紙に描き、そこから自分自身の今の生き方について考えたり、これから何をすべきかを考えたりする、まあ、ようするに、アートを使って物事を考察するワークショップのことである。
詳しいことは知らないが、動画を制作した株式会社Bulldozer(ブルドーザー)という会社は、このようなワークショップを企業向けに売り込み、その動画を制作して利益を上げているようだ。
YouTubeなどにアップすれば、それは見事な企業紹介動画あるいはCMにもなるだろう。
ということで、アートビジネスとしては筋がいい、と私は思った。

そのうち夜になった。
外はさらに寒くなり、私は解散の時間まで食堂内で過ごすことにした。


社員食堂


ふと私は、近くのテーブル席に座る「創業手帳」という濃紺のシャツを着た若い男性に目がいった。
確か、創業手帳はベンチャー支援の会社のはず。
話しかけてみると、彼は登壇者のYさんだった。
若いのに社長なのかと聞くと、自分は急用で来れない社長の代役で、ただの平社員だという。
もうすぐ出番なので緊張しているようだが、まあ、そうは言っても社長の代役なら、かなりのやり手だろう。
しかしどう見ても、秋葉原でアイドルの追っかけをしていそうな青年に見える。

「Yさん、今日はどんな講演をされるんです??」
「まあ、創業手帳の会社紹介をするだけかな。」
「人前で喋るの得意なんですか??」
「いや、全然だめ。」
「創業手帳さんは京橋の会社ですよね??」
「ええ。うちをよく知ってますね。サムライさんとは違って、弱小ですが。」
「私、知ってます。ギャラリー椿と同じビルの会社さんでしょ??」
「ギャラリー椿?? ああ、もしかして1階の画廊のことですか??」
「そうそう、たまに見に行くから。」
「それでうちをご存知なんですね。」
「そうです。私、よく銀座周辺でギャラリーめぐりをするんですが、私の大好きな彫刻家中村萌さんの展示会は、いつも銀座のはずれのギャラリー椿なんです。」
「へえ~、そういう偶然ってあるもんなんですね。」
「あのビルの4階と5階、ずっと空き室だったでしょ。だからいつも気になって、帰りにビルの案内板を見るんです。」
「ああ、それで。ええと、4階と5階は同じ会社が入っていたんだけど、コロナになってから抜けちゃいましたね~。コロナ後は、銀座も京橋も空き室ばかりですよ。これからテレワークで空き室はもっと増えるだろうし、東京はどうなっちゃうんだろうな。」
「私には、そういう難しい金融経済の話はよく分かりませんが、この出会いは私の大好きな中村萌さんのおかげです。」
「ああ、なるほど、、、」
「私、創業手帳さんとは不思議なご縁を感じます。」
「た、確かに。」
「今度、ギャラリー椿の展示会の帰りに遊びに行こうかな。」
「うちは6階です。オフィスはテレワークでスカスカだし、来ても大丈夫ですよ。」
「おお、いいんですか!!」
「はい、何のお構いもできませんけど。」

とまあ、こんな感じで知り合ったYさん、この日の大役を無事果たせたのだろうか。


ギャラリー椿の中村萌展示会