2019/12/12

紀尾井坂、紀尾井ホール、オーボエ奏者吉井瑞穂

今日は年末の締めくくりで、うちのママ殿と一緒に紀尾井ホールのコンサートに行ってきた。
オーボエの吉井瑞穂目当てにチケットを早めに確保しておいたが、ほぼ理想的なポジションが取れた。

お昼は、2人で六本木のインターコンチネンタルホテルに行き、ステーキを食べた。
この肉は、オーストラリア牛のサーロインである。
ママ殿は70才を超えているが、これだけのボリュームの牛肉を食べてもけろっとしており、レストランを出ても元気に歩いた。
コンサートは夜7時からなので、その後私たちは、出光美術館のやきもの展を見に行くことにした。


インターコンチネンタル東京


(サーロインステーキをナイフとフォークで見事にさばき、食べようとするママ殿)


私たちは日比谷線に乗り、最寄りの日比谷駅で下車した。
日比谷駅のことはよく知っているはずだが、どういうわけか、今日は出口を間違えた。
反対側に出てしまったのだ。
都内の地下鉄の駅はどこもそうなのだが、うっかり反対側に出ると戻るのにもひと苦労なのである。
結局、私たちは出光美術館までぐるっと回り道をして行った。
途中、ママ殿は私に愚痴を言った。

「あなたと一緒に外出するといつも歩かされるのです。」
「へえ、そうなの??」
「そうですよ。だから、今日は歩きやすいブーツをはいてきました。」
「なるほど。食後の良い運動になるのでは??」

私はそっけない返事をした。
出光美術館は、「やきもの入門」という企画展をしていた。
ママ殿はふだん美術館など行かないので、せっかちに歩き、ウィンドウの展示品を次々と眺めていった。
ママ殿は老眼だから、キャプションを読まないのだろう。
私は最初そう思っていたのだが、意外なことに、ママ殿は素人とは思えないほど、やきものに詳しかった。
親なので、私が知ったかぶりだとよく知っており、展示の途中で何度か立ち止まり、九谷焼とはどういうものなのかなど、私に教えてくれた。
そして、実家の床の間に飾ってあったやきもののことを思い出したり、旅行先で買ったやきもののことを思い出したりした。
昔の人にしてみれば、これくらいのことは常識なのだろう。

「やっぱり、美術館のやきものは、うちにあった適当なやきものとは違うわね。」
「まあね、、、」
「一見同じように見えるけど、美術館のやきものは実によくできているわ。」
「そりゃ、そうですよ、、、」

その後、ラウンジで皇居を眺めながらカップのお茶を飲み、ソファーで休憩した。
そのうち私たちは、2人並んでウトウトしてしまったようだ。
館員の男性がそばに来て、ブラインドをおろしたので、その音で私は目が覚めた。
窓から夕陽が差し込んでいたので、私たちのことを気遣ってくれたのかもしれない。

私たちは美術館を出ると、また地下鉄に乗り、赤坂見附駅に戻った。
そして散歩がてら、私たちは紀尾井ホールまで歩くことにした。
実は、紀尾井ホールは坂(紀尾井坂)の上にあるため、いつもはタクシーで行くところなのだが、今日はまだ2時間も前だし、せっかくなので歩いてみよう、ということになった。
まあ、お昼にサーロインステーキを食べたから、2人ともエネルギーがあり余っていたのである。


赤坂見附駅前


だが、それは大失敗だった。
もし私が紀尾井ホールまで歩いた経験があれば、70才過ぎのママ殿にそんな提案などしなかった。
まあ、ニューオータニと紀尾井プリンスのあいだの道を抜けるまではよかったが、そこから先は心臓破りの紀尾井坂があり、きつい登山道のような坂の途中でついにママ殿は私に文句を言った。

「向かい風が寒い。今日は、ハイキングに来たわけじゃないのよ。」
「分かっていますって。もう少しで着くから歩いてしまいましょう。ここまで来て、今さら戻るわけにもいかないでしょう。」
「パパと一緒にどこか旅行に行った時もそうだった。外出するといつも私は男に歩かされるのよ。」
「もう少し頑張って!!」

かなりご機嫌を損ねてしまったようだ。
その後、私たちは何とか紀尾井ホールに辿り着いたのだが、時間が早すぎて正面玄関がまだ開いていない。
はるばる登山道をのぼって山頂の山小屋が開いていないようなもので、これには本当にマイッた。
向かいのニューオータニに誘導するためなのだろうか、紀尾井ホールはカフェも何もなく、時間前まで本当に開けてくれないのだ。

私たちは仕方なく、ニューオータニで時間調整をした。
上のレストランは高いのでもったいない。
エスカレーターを下り、リーズナブルな「トムキャット」という洋食屋に入った。
ここは安くておいしいローストビーフ丼が売りなのだが、さすがにもう、お肉は食べたくない。


紀尾井町ニューオータニトムキャット


私たちはケーキセットで時間をつぶした。
隣の老夫婦がステーキセットを食べており、その様子をちらっと眺めたが、どうも、昼間に食べたインターコンチネンタルのステーキよりもおいしそうに見える。
まあ、他人が食べているものって、何でもおいしそうに見えるものなのだが。


紀尾井ホール「カルテットエクセルシオ+吉井瑞穂+影山梨乃」


その後、紀尾井ホールへ。
チケットには、「カルテットエクセルシオ+吉井瑞穂+影山梨乃」と書いてあるのだが、私はオーボエ奏者の吉井瑞穂しか知らない。
今夏、大手町のSMBCトワイライトコンサートで彼女の演奏を聞いたことがある。
その時はピアニストの近藤嘉宏さんが主役で目立っており、彼女の印象はやや薄かったのだが、控えめでセンスのいい演奏をしていて記憶に残っていた。
今回のコンサートは、カルテットエクセルシオが主役で、吉井瑞穂、影山梨乃はフォロー役という配置である。
演奏はベートーヴェン、モーツアルト、ドビュッシーと続き、最後に、グヴィエシュという現代音楽家の新作(初演)が披露された。
グヴィエシュの音楽はよく分からなかったが、吉井瑞穂のオーボエは非常にいい。


紀尾井ホール「カルテットエクセルシオ+吉井瑞穂+影山梨乃」


紀尾井ホール


さて、コンサートの帰り道はただの下り坂、タクシー代がもったいないとママ殿は言ったが、念のため駅までタクシーで戻った。
ママ殿が暗い夜道で転倒して、骨でも折ったら大変である。
ああ、タクシーならあっという間だね、運賃メーターもほとんど回らないではないか。
この運賃の節約のためにあんな苦労をしたのか、と私は思った。

その後、赤坂見附駅から千代田線の国会議事堂前駅へ。
東京の地下鉄の乗り換えは、思いのほか長い距離を歩かされるのだ。
地下通路を歩きながら、私たちは今日歩いた距離を話し合った。
10キロ歩いた、とママ殿は主張したが、10キロも歩いてるわけがない。
私は、まちがいなく10キロ以下です、と答え、結論が出ないまま家に着いたのだった。