2019/01/28

鏡をみてはいけません

去年1月のことだが、投資イベント(投資EXPO)の招待券をもらい、東京ビックサイトまで行ってきた。
まあ、正直言うと、投資のイベントにはあまり関心のない私、でも「第1回」投資エキスポということで、記念すべき第1回なら何となく見たくなった。
ただ、その時に隣の会場ではジュエリーの展示会が同時開催されており、私は投資エキスポを少しだけ見た後、ジュエリーの会場に入った。
そこできらびやかな宝飾品のブースをひとしきり見て回り、会場内でジュエリーデザイナーの女性と知り合った。

その日の夜はちょうど、ベストドレッサー賞のレセプションがあった。
知り合ったばかりの彼女の作ったジュエリーが、授賞式で芸能人に手渡されるという話なので、私もどんなものなのかと興味を持った。
受付で聞くと1万5000円の当日券が何枚か余っており、私もその場でチケットを買い、レセプション会場に入った。
バイキングの豪華料理はすでになくなっており、私は彼女と一緒にステージのそばで立ち見をした。


ベストドレッサー賞レセプション会場2019年


ベストドレッサー賞レセプション


ステージには世代ごとの有名な芸能人たちが立ち並び、そのステージ衣装はどれも花やかだった。
だが、芸能人のコメントはスポンサー(チケットを買った私たち)に対するお世辞ばかり、芸能人なのに優等生すぎて少々退屈だった。
世代ごとに男女1人ずつが選ばれるので、ステージの左から右へ、必然的におじさん、おばさん、おじいさん、おばあさんとなっていく。
これが私には、まるで芸能人の老人会のように見えてしまった。

そういえば、ビックサイトまで2時間かけ、電車とバスを乗り継いできたが、その移動時間に、私は田辺聖子の小説「鏡をみてはいけません」を読んでいたのだ。
なるほど、右へ行くほど鏡を見てはいけません、左へ行くほど鏡を見てはいかがでしょう、という状況である。
私は悪口を言いたいのではない。
単純に年齢順で並べるとそう見えてしまう。
並び方を工夫するなどした方がいいし、舞台演出にも創意工夫が足りない。


田辺聖子「鏡をみてはいけません」


数日後、そのジュエリーデザイナーの女性と六本木で会った。
さすが都内の高級住宅地に住むジュエリーデザイナー、毛皮のコートにクリスチャンルブタンの靴、ドルチェアンドガッバーナのバッグである。
しかし、やけに庶民的で、焼き肉が食べたいなどというので、六本木ヒルズの近くにオープンしたての小さな焼き肉店に入った。
細長い店構えで、こないだまで居抜き物件だったところである。
カウンター席で一緒に飲み食いをしたのだが、私の肉は全て、彼女が焼いてくれた。
まあ、いいでしょう、男性がおごるのだからね、、、いや、会計はきっちりワリカンだった。
確かに、今日(こんにち)の男女はワリカンが正しい。






以上が去年の話。
今年も1月に、投資エキスポとジュエリーのイベントが同時開催される。
去年知り合った彼女にメールで聞くと、今年は選ばれなかったので出席しない、と言われた。
確かに、落選したら見に行きたくないにきまってる(それに彼女と私は縁がない)。
しかし、去年出席した私のもとへ今年も案内状が届き、私は1枚、前売りの安いチケットを予約していた。
第1回で知り合った男性と今年もまた会場で会う約束をしたから、結局そのついでに、ベストドレッサー賞を見ることにした。

第2回投資エキスポは、去年と同じ場所で開催された。
私はその男性と1年ぶりに会い、2人で今年の株式市場の予測をしたり、雑感を話したりして、1時間ほど話して別れた。
その後、私はひとりでジュエリー会場へ。

今回は海外のジュエリーを中心に見た。
私はジュエリーのシロウトだが、何人かの欧米のジュエリーデザイナーと話し、商品をよく観察し、次のような確信を持った。
彼らは高額の旅費をかけ、日本までジュエリーを売りに来るリスクを取っている。
そのため、低品質のジュエリーや、まがいもののジュエリーを並べたりはしていない、ということである。
経費がかかる分、値段はある程度高くなるが、それは当然である。

夕方になった。
ベストドレッサー賞のレセプション会場は、ジュエリー会場から徒歩で10分以上かかる。
なので、私は早めにそちらへ向かった。
時間前の列に並ぶと、テーブル席をおさえることができた。
去年は立ち見で大変だったから、ラッキーだ。
テーブル席では、見知らぬ宝石商のファミリーと一緒になった。
60才前後の色黒で洒落たおじさんが、ファミリーの会社社長である。
世間話をすると気さくで、なかなかおもしろい人だった。
公務員や、お堅い会社には、いないタイプである。
話して感じたが、私もこのおじさんと性格が似ているんだなあ、と思った。
すると、宝石商が、私の適職なのかもしれない。
しかし、私はジュエリーの素人だし、あのジュエリーデザイナーとも縁がなさそうだ。

さて。
彼らも私も、席をキープした後、早速、会場外のラウンジへ向かうことにした。
ラウンジにはバイキングの皿が並んでおり、これが出席者のもうひとつのお目当て。
料理はむろん早い者勝ちだ。
時間がたつと食べられてしまうので、肉や寿司などを食べたい人はレセプション開始前に取り皿に取っておく必要がある。


ベストドレッサー賞レセプション


私は、握り寿司とローストビーフを取り皿に取り、会場の席に戻った。
宝石商のファミリーもまもなく、料理を何皿も持ってきて席に座った。
食べきれませんね、そうですね、などと話し、レセプションを見ながら、いくつかの料理を分け合って食べた。

芸能人のレセプションは去年とだいたい同じだったし、帰りの電車の時間が迫ってきたので、私は途中退出することにした。
ラウンジに出たとき、帰りにもうひと皿食べたくなった。
ラウンジの料理皿を眺めて歩くと、肉、寿司は売り切れ、スイーツもやっぱり売り切れ、さて、何を食べようかしら??


ベストドレッサー賞レセプション


私は仕方なく、唐揚げ、イカフライ、肉じゃが、ライスなど、不人気銘柄を皿に取った。
もうこうなると、スーパーマーケットのお総菜コーナーで取ってきたものに等しいが、はたしてこの残り物には福があるのだろうか。
いや、福はあるに違いない。
そう思って私はこれを完食した。
テーブルにずらっと並べると食べ残して平気だったのが、たったひと皿のものだと妙にもったいない気がしてきちんと食べてしまった。

おや、近くのテーブルにもまだあるぞ。
冷たいそばのお椀がずらっと並んでおり、何とも風流である。
これから帰るのに、こんなものを食べたら寒くなってしまう。
考えることはみな同じのようだ。
食べ尽くされたので、もう帰ろう。
ラウンジを出た私は、手荷物預かり所でかばんとコートを受け取り、東京ビックサイトをあとにした。