2018/09/11

事業計画書の書き方(4)





前回の続きである。

④-5 ライバル
競合他社との差別化の話は、事業計画書に不可欠である。
たとえ市場に需要があり、顧客がそこにいるとしても、ライバルを差し置いて自社がその顧客を獲得できなくては負けてしまうからだ。
まず、競合他社を具体的に列挙する。
ふつうに考えると、競合他社との差別化は3つのポイントに分けられる。
第一に商品面、第二に人材面、第三に資金面、である。
ベンチャー投資の本質は、この3つをVCとVB(投資先ベンチャー企業)で役割分担し、他社との競争を勝ち抜くことである。
VC側が資金面、VB側が商品面と人材面。

⑤優秀な人材のアピール
この世に似たような商品サービスはたくさんあるのだし、他社もほとんど同じものをリリースしているとすると、競合他社との差別化で非常に重要なアピールポイントは人材面である(例えば、ボードメンバーの経歴、実績等)。
確かに、事業の主役は起業家自身というよりは、利益を生み出す商品サービスそのものだ。
以前の記事でも、そう書いた。
しかし、サービス商品が同じようなものだとすれば、「マネジメント」すなわち人材が勝敗を分けるカギとなる。
私は、斬新なビジネスモデルであればあるほど、VCは人材を重視して投資するべきだと思うのだ。
なぜなら、斬新なビジネスモデルは不確定要素であり、どんな高度な分析をしたって時間をかけて議論をしたって投資判断のあてにはできないのに対し、そのビジネスモデルを遂行する人材は少なくとも現時点で確定した要素そのものだからである。
まあ、優秀な人材は担保のようなもの、ということだ。

マネジメントチームについて、VCは強い関心を持っている。同じことをしても成功する人と失敗する人に分かれるからだ。マネジメントチームの構成メンバーの経歴を見て、VCが起業の成功について確信を持ったり、まったく期待しなかったりということは現実にある話である。
(「概論日本のベンチャーキャピタル」P179)

⑥設備投資、生産計画
まず、⑥と⑦は、これまでのこととは異なり、スケジュールの話である。
しかし、そもそも名前からして、事業計画書のメインはスケジュールのはずだ。
VBはVCに対して、自社のビジネスを時間軸で説明する必要がある。
なぜなら、VCは待たされる立場だからである。
いつまで待てばいいのか、最終的にはそこが知りたい。
したがって、事業計画書にも、何を書くにせよ、いちいち時期を明記する。
設備投資も生産計画も、ともにコストの決定に関わる。
高すぎれば売れないし、安すぎても儲からない。
企業競争とは果てしない「コスト競争」でもある。
したがって、この点は実は非常に重要である。

⑦資金計画、収支計画(収益計画)
お金を貸すにしろ出資するにしろ、投下資本の回収計画が最重要であることから、実にここが事業計画書のメインではないのか、とも思えるくらいだ。
結局、あなたはいくらほしいのか、必要な金額のことだね。
資金調達の額及び方法(株式OR借入金)、発行済み株式数と株主構成の推移、IPOまでの道のり、いつIPOできるのか、といったことだ。

●どの程度まで累積損失が積み上がるのか。
●調達した資金は事業が立ち上がるまでに、どれくらいのペースで消費され、どれくらいの期間もちこたえることができるのか。
●累積損失を事業立ち上がり後の利益でどのように解消していくのか。
(「概論日本のベンチャーキャピタル」P176)

以上、4回に及んだが、事業計画書の書き方はこんな感じでおしまい。

2018/09/10

事業計画書の書き方(3)





前回の続きである。

④-1 サービス商品そのもの
サービス商品そのものの特徴、強み、革新性、使われているテクノロジーの説明等である。
テクノロジー系のVB(投資先ベンチャー企業)のアピールポイントはまさにここである。
だが、斬新なビジネスモデルは不確定要素で、その評価は困難である。
通常、VBは思い入れがあり、資金がほしいからこの点について強気、VBは思い入れがなく、資金を出す方だから弱気である。
ここで重要な判断のポイントは、サマリーで書いた「事業ドメイン」との関係である。
分かりやすくいうと、VCは、そのVBの新しい家電商品が、家電量販店のどこの売場のどの辺の棚に置かれるのかをイメージする。
そうすると、たとえ単品で優れた性能があり、前代未聞のレッドオーシャンな技術が搭載されているとしても、売場の棚で他の類似商品と競争して本当に勝てる見込みがあるのかが問題となる。
そして、その具体的な見込みのことを「商品の強み」というべきなのである。

④-2 市場
市場には需要があるのか、である。
demandあるいはneedsということだが、これはようするに、人々に興味を持たれそうかという点に帰する。
まあ、少なくとも、起業家自身がほしくてたまらない魅力的な商品でなくてはなるまい。
しかし、画期的な商品が市場で認知され、市場で興味を持たれ、市場で購買される、この一連のプロセスが有機的に機能して初めて商売が成り立つのであり、認知方法としてのマーケティングはもちろんのこと、マーケットを作れるだけの下地(興味)が必要なのである。

まず、市場規模を近年の傾向もふまえて分析する必要がある。
もちろん、市場が成長拡大トレンドであることが好ましい(VBも成長しやすい)。
しかし、市場がピークアウトしていたり、衰退縮小トレンドにあっても、それはそれでかまわない。
なぜなら、近い将来その市場がなくなってしまうわけではなく、他社の事業やその事業モデルの合理化がビジネスとしての価値を持つ場合もあるからである。
まあ、ビジネスチャンスというのは、どこにでもあるものなのだ。

さて、市場分析はVBにとって自己分析ではない。
VBは、自社の商品サービスの分析についてはよくやっているが、それは自分自身の問題だから当然のことだ。
これに対し、需要、人々の興味、ターゲット顧客、マーケット、市場規模、ライバルについては、往々にしてVBは分析不足である。
こちらは自分自身の周囲の環境の問題であり、あまり熱心になれないのもやむを得ない。
しかし私は思うが、VC側は後者の方を気にするだろう。
なぜなら、後者のリサーチが前者の主観的分析を客観化するという作業を起業家に強いるからであり、後者のリサーチによりビジネスモデルがより洗練されるのだし、また起業家の社会性と洞察力の審査に直結する資料となるものだからである。
ようするに、前者は起業家の才能の問題なので、VC側はよく理解できないのであるが、後者は起業家の社会常識や洞察の問題なので、VC側は比較的理解しやすいのである。
また、後者はビジネスの成功のための安定的要素だと思う。
恐らく、発明家への投資は前者がメインのハイリスク案件、改良家への投資は後者がメインのミドルリスク案件、というような感じだろうか。
私がVCなら、どちらにもバランスよく投資するだろう。

通信系のソフトウェア分野では名を知られたあるVB経営者は、ビジネスを考える際、技術の先端性にはまったくこだわらない。先端技術でビジネスを組み立てようとすると、巨額の資金を必要とするわりには市場が小さいケースがあり、そこは経営資源を潤沢に持つ企業の領域であると考えるからだ~中略~その分野では第一人者であっても、「この技術で世の中を変えてやろう」というところからスタートせず、当面は小さな高収益企業として存続するための戦略を選んだというわけだ。
(「概論日本のベンチャーキャピタル」P182)

④-3 顧客
顧客とは、やや漠然とした市場という客体を「人」にまで具体化したものである。
市場がハコなら、顧客はハコのなかみである。
VBは、市場を正確にターゲティングし、かつ、顧客を正確にターゲティングしていなくてはならない。
例えば化粧品のビジネスをするのなら、化粧品市場の分析後、自社の化粧品を買う女性の年齢や嗜好までフォーカスして考えなさい、ということだ。

市場⇒顧客⇒マーケティング

事業計画では、このようなアプローチをする。
ここでは、顧客が現状に満足していないという点が前提事項としてある。
なぜなら、その物足りなさや不満足をみたすために、我が社が今般新商品新サービスを提供し、それが爆発的に売れる、というのが筋書きだからである。
したがって、先ほどの化粧品のビジネスの場合だと、女性顧客が化粧品に対して何を求めているか、VBはまずそこから明らかにする必要があり、それが実は満たされておらず、新規参入者たるVBにも一定の「チャンス」がある、という仮説を組み立てるのだ。
顧客はいつでも賢明であり、革命的な新商品を買うのではなく、不満足(枯渇)を埋める商品を買う。
VBは新商品の革命的なテクノロジーのことよりも、顧客を想定し、顧客の不満足(枯渇)をより具体的に説明するべきである。

④-4 マーケティング
どのようにして顧客を勝ち取り、顧客に買ってもらうのか、マーケティングは市場と顧客に対する理解から始まる。
市場と顧客を正確にターゲティングし、最後にマーケティング戦略を提示する。
まあ、ここは事業計画書の書き方そのものではないので、省略するが、フィードバック、コミュニケーションといったことが今日では非常に重要だ。

この市場認識は、VBが考えたビジネスモデルが実際に機能するためのポイントなので、VCは最も注意して説明を聞く。VCがビジネスモデルに興味を持ったとしても、それが実際に機能するには、スムーズな市場参入と参入後の競合他社追い落としのための諸戦略にも実現可能性を見出し得ることが重要である。この点に無理があると、ビジネスモデルは絵に描いた餅にすぎない。
(「概論日本のベンチャーキャピタル」P178)

さて、長くなったが事業計画書の書き方の話は、次回で終わりである。

2018/09/09

事業計画書の書き方(2)

事業計画書の内容


サービス商品のなかみ




前回の続きである。

①サマリー(sammary)
サマリーとは要約、ここではビジネスモデルを簡潔に記載することを意味する。

・事業ドメイン(ようするに、店の看板、何屋か、業界の分類等)
・このビジネスモデルの魅力、成長性
・事業戦略、成長戦略
・その実現方法、実現過程(スケジュール)
・なぜこのビジネスをするのか、選択理由、決断理由

サマリーに事業ドメインを明記するのは当然のことだが、少なくともここでは、何を(どんなサービス商品を)、誰に、どのようにして売るのか、といった5W1Hを要約して記載する必要がある。
また、事業の主役は起業家自身というよりは、利益を生み出すサービス商品そのものの方であるから、そちらの成長性を明示する必要がある。

サマリーの作成は、起業家にとっては、もう一度ビジネスプランを整理できる機会なので、意味のある作業と言える。さらに、このサマリーをもとに、30秒以内の説明、5分以内の説明、15分以内の説明、30分以内の説明というように、数パターンの話法を用意すれば効率的である。
(「概論日本のベンチャーキャピタル」P173)

②ビジネスモデル(business model)
事業計画書にはビジネスモデルを記載するわけだが、起業家はビジネスモデルとビジネスアイディアの違いをよく理解しておく必要がある。
私は、ビジネスアイディアを漫才のネタのようなものだとすると、ビジネスモデルとは漫才のシナリオ(台本)のことだと思っている。
同じネタでも、シナリオが違えば観客ウケも違ってくるから、シナリオはネタ同様に漫才の核心である。
シナリオとはネタを生かすための仕掛け、重要なのはこの仕掛けを事業計画書に明記できなくては、VCを説得できないということである。
また、漫才の話とひっかけてもう1つ付け加えると、ビジネスアイディアが「古いネタ」ではだめである。
ネタは今はやりのもの、トレンドでなくてはいけないのだ。

ビジネスモデルは時の流れとともに陳腐化し、最近はそのスピードが速くなっている。ビジネスモデルの有効期限が短くなっているということであり、VCはこの点に特に注意を払う。
(「概論日本のベンチャーキャピタル」P175)

③キャッシュフロー(cashflow)
詰まるところビジネスは「儲け話」である。
漫才は笑いを取れるかが勝負だが、ビジネスではキャッシュを取れるか(生み出せるか)である。
どうしてそのビジネスモデルでキャッシュを生み出せるのか、この点を事業計画書に明記しないとVCを説得できない。

④サービス商品(service product)
先ほどの繰り返しとなるが、何を(どんなサービス商品を)、誰に、どのようにして売るのか、がビジネスモデルの「なかみ」(各論)である。
事業計画書では、この点を掘り下げて説明する必要がある。

・サービス商品そのもの(サービス商品そのものの特徴、強み、革新性、使われているテクノロジーの説明等)
・市場(市場には需要があるのか?)
・顧客
・マーケティング(どのようにして顧客を勝ち取る?)
・ライバル(ライバルとの競争を勝ち抜くには? 競合他社との差別化)

この想定シナリオを現実のものとするには、キャッシュフローを生み出すためのビジネスモデルが実現可能であることをVCに示さなければならない~中略~そのビジネスモデルが、具体的なプロセスのなかで、どのようにしてキャッシュフローを生み出すのかという点が重要なのである。
(「概論日本のベンチャーキャピタル」P174)

さて、④に記した5つのポイントを、次回以降1つずつ解説する。

2018/09/08

事業計画書の書き方(1)

役所の提出書類の書き方のきまり


役所の作成書類の書かれ方の特徴


「マンガでやさしくわかる事業計画書」


「マンガでやさしくわかる事業計画書」


<役所の提出書類の書き方のきまり>
・一般常識のある社会人の文体
・素人向けの言葉遣い
・シンプルで明快な構成
・はっきりとした根拠を示す
・はっきりと回答する
・結論が明確

<役所の作成書類の書かれ方の特徴>
・役人ならではの文体
・専門職の言葉遣い
・複雑で難解な構成
・はっきりとした根拠はない
・はっきりとしない回答がある
・結論が不明確

役所の提出書類の書き方は、わりと当たり前のことばかりである。
これに対して、イヤミではないが、役所の書類は見事にこの反対である。
もう本当にこれに尽きるのだが、事業計画書は、役所の書類ではなく、役所の提出書類の書き方で作成しなくてはならない。
私の勝手な見立てだと、日本の起業家支援がうまくいかないのは、前者のように考えられない人たちが関わっているからではないだろうか。

うちは〇〇をしたい⇒そのために△△をする計画を立てた⇒しかし、いまは資金不足でそれができない⇒よって、助成金補助金、銀行融資~に申し込みます

事業計画書の全体の構成はこういう感じである。
その審査のためいくつか答えるべき事項があるはずだが、これは試験問題の「問い」にあたる部分なので、必ず「答え」を書かなくてはいけない。
もちろん答えだけではだめで、根拠を示す必要がある。
根拠は文章だけに頼るのではなく、数字、表、グラフ、フローチャートなどを多用する。
しかし、どうも事業計画書を書くのは気が進まないという人もいるだろう。
そういう人は、手始めに自社のウェブサイトを作ってみるのがよい。
ウェブサイトのコンテンツを充実させる過程では、事業計画書を書くのと同じような頭の使い方をするからだ。
これにより頭の中が整理できるので、事業計画書の構想もだいぶ固まるだろう。

事業計画書のメインは何といっても資金計画である。
何かをすれば資金が増減するので、事業計画書とは資金計画書でもある。
言うまでもなく、事業計画書を審査して出資する投資家や金融機関は、そこを一番知りたいわけであるから、全ての物事を「お金」の問題へ落とし込む必要がある。
どんなに素晴らしい目標を語っても、目標だけでは相手を説得できない。
目標の実現手段がハッキリしていることが重要である。
そして、実現手段を担保するのはお金なのである。
また、事業計画書では「ゴール地点」も明らかにしておく必要がある。
登山で言うと、山頂に何があるのか、ということだが、そこには財宝の山があるのだ。
ようするに、数字でそれを示せ、ということである。
強気な数字を示せないなら、そもそも新しい事業なんかやらない方が良い。
さて、事業計画書の詳しい書き方については次回に譲ることにするが、まずはリラックスしてマンガで学べばよいのではないだろうか。