2022/10/08

投資契約とクーリングオフ



書斎の本を整理していたら改正前の商法の教科書が出てきた。
商法なんて忘れたなあ、、、
ちょっと読んでみた。
おお、株取引の条文を発見!!

意外と知られていないが、株取引のことは商法にちゃんと書いてあるのです!!
株取引は商法の「絶対的商行為」というもののひとつである(商法501条)。
絶対的商行為とは、行為の性質上当然に商行為(ご商売)とされるもの、営業非営業、商人非商人を問わず、単にそれをすると即、商行為(ご商売)と認定される。

私たちは通常、株取引のことを「株式投資」と呼ぶ。
しかし、目的物を安価に取得し、高価に譲渡し、その差額を利得する行為を投機購買(投機的な買い)といい、個人投資家の積み立てによる株式投資なんかも商法上のこれに該当するのである(501条1号)。

(絶対的商行為)
第五百一条 次に掲げる行為は、商行為とする。
一 利益を得て譲渡する意思をもってする動産、不動産若しくは有価証券の有償取得又はその取得したものの譲渡を目的とする行為
(出典:法令検索・商法

さて本題にいこう。
投資契約のクーリングオフは認められるのか。
例えば英会話教室に入会したが、やっぱりやめます、入会金、受講料を返してください、というのがクーリングオフ(無理由解除)の典型例である。
条文上、クーリングオフという文言はないが、特定商取引法、割賦販売法などの法律で消費者保護のために無理由解除が認められており、これをクーリングオフといっている。
詳しくは、2022/07/15「あんみつ先生の契約トラブル講座(インターネットトラブル講座より)」に書いてある。

ただ、事業者(商人)はそもそも消費者ではないので、クーリングオフの制度で保護してもらえないのである。

では投資契約はどうなのか。
結論としては、投資契約のクーリングオフは認められない。
その一番の理由は、もしクーリングオフを認めると、金融商品が値下がりしたらクーリングオフをして、値上がりしたらクーリングオフをしない、というようなズルができてしまうからだと思う。

まあ、それでも個人投資家は金融機関や投資会社との関係では、消費者のような立ち位置である。
しかし、そうはいっても個人投資家は消費者契約法で保護されないと考えられている(同趣旨、商事法務2010年P91~92)。
以下通説的見解だが、個人事業主の株取引は事業資金の運用手段の扱いであり、2条1項の「事業のため」の文言で除外されるが、会社員などの場合も、株取引が再投資や生活のために運用する1つの事業とみなされるので、2条1項の「事業として」の文言で除外される。

(目的)
第一条 この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑み、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合等について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
(定義)
第二条 この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。
2 この法律(第四十三条第二項第二号を除く。)において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
3 この法律において「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。
4 この法律において「適格消費者団体」とは、不特定かつ多数の消費者の利益のためにこの法律の規定による差止請求権を行使するのに必要な適格性を有する法人である消費者団体(消費者基本法(昭和四十三年法律第七十八号)第八条の消費者団体をいう。以下同じ。)として第十三条の定めるところにより内閣総理大臣の認定を受けた者をいう。

ようするに、法律は投資家にはなかなか厳しい態度なのである。
投資をしている時点で、あなたって消費者ではなく、商売人なんですよ。
だから損をしたからといって消費者(弱者)のふりをしても、法律で守ってあげませんよ、ということなのである。
法律の原則論としては、投資で損をしたというのは、商売人が商売にしくじって損をしたという話と同じである。
まあ、欲張りでやったこと(投資)なんだから、言われてみればごもっともではないでしょうか。