2022/07/07

和久峻三「民法おもしろ事典」

おととし、講師養成講座で知り合ったYさん、彼女は社会保険労務士兼FP(ファイナンシャルプランナー)で、茨城県内で資産設計セミナー、終活セミナーなどの講師をしている。
こないだ、そのYさんからセミナーの資料を見せてもらう機会があった。
終活セミナーの場合、まず遺言の勉強から始めるのだという。
資料は、遺言~成年後見、民事信託と続いていたが、几帳面なYさんは図表と吹き出しを多用し、専門用語ではなく平易な言葉を用いていた。

確かに法律用語は難解なので、何も知らない一般人に教えるには様々な工夫が必要だ。
しかし、平易な言葉だと正確さを欠く場合が多い。
Yさんもいろいろ悩みながら作っているようだが、、、専門的な話をかみ砕いて話す、これは教えることの中では最も難しいし、注意が必要なのだ。

そういえば、昔のことだが、作家で弁護士の和久峻三が「法律おもしろ事典シリーズ」というのを書いていた。
学生時代にシリーズごと買ったのを思い出した。


和久峻三「民法おもしろ事典」


書斎の本棚を探すと「民法おもしろ事典」だけが残っていた。
欲張りで醜い豚兄弟が、遺言と遺影を持って微笑み、相続争いを予兆させる扉絵である。
和久峻三は、必殺仕事人で有名な藤田まことが主役刑事を演じる「京都殺人案内シリーズ」の原作小説を書いた流行作家である。
ページをめくると、最初のお題は「埋蔵金を発掘したら誰のものになるか?」であった。
さすが、流行作家である。
これなら、一般の人は気になって読み始めてしまう。
人生の中で私たちが埋蔵金を発掘することなど考えられないが、そこはやはり、もしもの時のために知りたい。
読み進めると飲み屋のツケの話もあった。
消滅時効の話である。
その後、遺言の話になっていき、いよいよ扉絵の豚兄弟の醜い相続争いの話になる。
ただ、これは旧民法の時代の古い本なので、ここからは私が話そう。
遺言には大きく分けて3つの方式がある。

・自筆証書遺言
・秘密証書遺言
・公正証書遺言

この3つを、「じひつしょうしょゆいごん」「ひみつしょうしょゆいごん」「こうせいしょうしょゆいごん」と読むのは読みにくいので、法律家は遺言を「いごん」と読む。
たまに、「それって、ゆいごんのことでしょ?」と微笑んで突っ込まれる場合があり、もっとごくたまに「ゆいごん!!」と注意される場合もあるのだが、国語教師が「ゆいごん」と教えるのだからしょうがない。

このうち、1人で手軽に書けるのが自筆証書遺言である。
自筆なので、パソコンで作るのはだめである(ただし、財産目録はパソコンで作ってもよい)。
しかし、書き方の簡単な決まりがあるだけで、それさえ守ればわりと柔軟な記述ができる。
子供へのメッセージなどの自由記述をしてもよい(「付言事項」などという)。
ただし、自筆は手軽に書けるから信用力も弱い。
そこが自筆の問題点である。
練習用に書いた後、破り捨てるのを忘れたりして、あとでそれを見つけた子供たちがそれに従って遺産分割をするかもしれない。
逆に、清書の遺言を封筒に入れて大事にしまうと、子供たちに見つけてもらえないままかもしれない。
そこで予め同居の息子にありかを伝えておくと、同居の息子が遺言の文末をこっそり書き換えるかもしれない。
その結果、遺産をもらい損ねた次男は偽造と言い、遺産をもらえる長男と争いになるかもしれない。
このように、自筆だと保管や管理も含め、いろいろと大変なのである。

そこで最近、法務局に自筆証書遺言を預ける便利な新サービスが注目されている。
令和2年7月に運用開始がされたばかりで、まだ十分周知されていないが、非常に便利である。
法務局は司法書士が登記申請をする場所なので、興味があるなら近所の先生に聞いてみるといいだろう。
法務局の登記の窓口とは別に、遺言書保管の窓口が新しくできて、そこに遺言書保管官という行政職員が配置されている。
ここで所定の遺言書保管手続をすると、法務局の金庫(?)で遺言書を大事に預かってもらえるので安心という話である。
今のところ保管料は1通につき3900円である。
家庭裁判所での遺言の検認手続が不要となるのも利点である(法務局における遺言書の保管等に関する法律11条)。


法務局遺言書保管手数料一覧


(普通の方式による遺言の種類)
第九百六十七条 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。
(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
(公正証書遺言)
第九百六十九条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 証人二人以上の立会いがあること。
二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。
三 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。
四 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。
五 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。
(公正証書遺言の方式の特則)
第九百六十九条の二 口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第二号の口授に代えなければならない。この場合における同条第三号の規定の適用については、同号中「口述」とあるのは、「通訳人の通訳による申述又は自書」とする。
2 前条の遺言者又は証人が耳が聞こえない者である場合には、公証人は、同条第三号に規定する筆記した内容を通訳人の通訳により遺言者又は証人に伝えて、同号の読み聞かせに代えることができる。
3 公証人は、前二項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に付記しなければならない。
(秘密証書遺言)
第九百七十条 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
2 第九百六十八条第三項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。
民法